第295話 くしゃみと河童ヘッド

文字数 1,168文字

・6月21日 くしゃみと河童ヘッド

すんごい埃だな……、と思っていたら。
鼻。鼻がムズムズと……。

ぶえっくしょっ!

「痛っ!」

「どうした?」

びっくりしたように聞いてきた白根の爺さんに、痛みのあまり、俺はやっとの思いで答えた。

「くしゃみしたら、舌噛んで、血が出ました……」

俺、ちょっと涙目。いや、ほんの端っこでも、痛いんだよ噛んだら舌って。

なのに、大笑いする爺さん。

……
……

おいコラ、ジジイ! この埃だらけの物置のどこかに埋もれてるっていう、ベンチャーズの『ダイヤモンド・ヘッド』とかいうレコード探すかわりに、『カッパー・ヘッド』にしてやろうか、爺さんの頭。

あ、既にカッパ頭だったか。
もしくは、天然トンスラ。

そんなことを考えながら、ツボに入ったのか腹を抱えて笑い続ける爺さんを、何とも言えない脱力感とともに眺めてたら。

ぶへ~くしょん! くしょっ!

爺さんもくしゃみして、勢いで傍にあった棚に頭ぶつけ、落ちてきたガラクタと埃に埋もれてしまった。

ざまあ見ろ、とか思う前に、俺まで埃攻撃にさらされ、さらにくしゃみを連発。爺さんも言わずもがな。

ま、うち(俺の仕事は<何でも屋>だぜ。いくら最近管理人が更新さぼり気味だからって、忘れちゃイヤだぜ、ベイベー)のお得意さまだし、早く助け出すとするか。





・6月23日 夏至の日の塩麦茶と蜂蜜レモン

今日は一日肉体労働。いや、基本的にいつも肉体労働なんだけども。

隣町の寺の、広い庭の竹垣の補修。その応援要員というか、お手伝いというか。
親方に言われるまま、縦半分に切った竹材を押さえたり(竹を割ったような、っていう喩えがあるけど、竹って、本当にぱっかーんと真っ直ぐに割れるのな)、麻紐みたいなのを結んだり、緩んだ部分を補強したり。

蒸し暑かった。

塩麦茶、がんがん飲んだのに、全然トイレに行きたくならなかったのが凄い。全部汗になって出て行ってたんだろうなぁ。

そして十時の休憩時間。この間の面会日に、元妻と暮らしている娘のののかが作ってきてくれた蜂蜜レモン食べてる。

──パパ、夏はお仕事でいっぱい汗かくっていってたから。でんかいしつ? が不足になったらからだに悪いんだって。だから、これ。食べてね。

くう。美味い。冷えたビールよりも、チューハイよりも、どんな甘露よりも美味い。

ののか。パパ、頑張るからね!

……え? 親方? ちょっと欲しいって? 美味そうだって、当たり前じゃないですか、娘の手作りですよ! もう、しょうがないですね、一切れだけですからね。

それから一頻り、親方に娘自慢をした。親方んちは息子さんしかいないらしく、えらく羨ましがられた。

ふっふっふ。力がもりもり湧いてきたぞ。
蒸し暑い空気にも、俺は負けない! ここに断言しよう! 娘に応援されてる父親は、無敵だ。

……
……

ま、ちょっとだけ暑いかもしれない。ちょっとだけね。
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