第199話 連休明けはゾンビがいっぱい

文字数 1,250文字

※暦は今年のものではありません

・五月七日 黄金週間悲喜こもごも?・

黄金週間が終わった。

たいがいの会社はカレンダー通りに飛び石か、あるいは、四月二十九日の昭和の日から四月三十日、五月一日、二日を休みにして七日間休みにするかのどちらかだが、太っ腹にも四月二十六日土曜日から五月六日まで十一日連休とした会社もある。

ま、そんなもん、派遣社員などの日雇い労働者からしたら有り難くも何ともないだろうが。むしろ、五月は収入が減って困るという人も多い。

そんな状況の中で、笑っていいのかそれとも慰めた方がいいのか、非常に困ったのが犬散歩仲間の村野さん。彼はどこかそこそこの会社に努めているらしいのだが、何をどう勘違いしたのか(カレンダーを見なかったのか?)連休は五日で終わりだと思い込んでいたという。六日が振替休日になることを知らなかったらしい。

いつもどおりに出勤したら会社は当然休みで、守衛さんに笑われたとヤケ気味のハイテンションで語ってくれた。……その目に光るものが見えたのは、気のせいだろうか。

彼の飼い犬、柴犬のきなこちゃんは長い散歩に喜んでいるようだったが。きなこちゃんは生後一年だったか一年半だったか、元気な盛りだもんな。

俺は南さんちの甲斐犬の雑種、ゴン太を散歩させてたんだが、ご主人が旅行で数日家にいないのが寂しいのか、昨日よりもさらに元気が無かった。今日の夜にはおとーさんもおかーさんもおねーちゃんもおにーちゃんも帰って来るからな、と慰めてみたけれど……分かるわけないか。

そんなゴン太の顔を、元気いっぱいのきなこちゃんが「元気出しなさいよ」とばかりにペロペロ舐めてやっていたのが微笑ましかった。いつもなら、軽く挨拶? する程度なんだが。顔見知りが落ち込んでるのが分かったんだろうか。

休みを一日損して落ち込む人間、休みで飼い主がいなくて落ち込む犬。その背中に漂う哀愁が妙に似て見えるのは、俺だけじゃないだろうなぁ、と苦笑してしまった。

あー、ゴン太。落ち込んだからって座り込むのやめろ~! お前は重いんだから。って、あー、あー……。

この甘えん坊め。しょうがない、おぶっていくか。

……こら、後ろから耳を舐めるな、くすぐったい!






・五月八日 連休明けはゾンビがいっぱい・

連休明けの昨日今日、ゾンビのように疲れ果て、通勤の足取りがいつもよりさらに重そうなサラリーマンやOLさんを見かける。

帰省ラッシュで、新幹線ホームでもみくちゃになったり、空港待合でもみくちゃになったり、連なるテールランプがまるで「怒れるオームの群れ」のように見える長時間ドライブで精魂尽き果てたりしてるんだろうな。以前いた会社でも、連休明けの同僚たちは殆どそんな感じだった。

俺には帰省すべき故郷は無い。今までも、これからも、そういう経験をすることはないだろう。

そう思うと、ちょっとだけゾンビな人たちが羨ましく見えてくる。
……来週あたり、両親と弟の墓参りに行くか。
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