第298話 漢、伝さん

文字数 915文字

・12月1日 風呂は常世への誘い……?

ちゃぽ、と水音がした。

……
……

次の瞬間、
じゃぼじゃぼごへごへげほっ。
鼻から水入った。死ぬかと思った。

風呂で寝ちゃあイカン、とは分かってるんだ。分かってるんだけど、あんまり気持ち良くて。ちょっとだけ、ちょっとだけ、とか一度でも目をつぶってしまうとダメなんだなぁ。

ふぁ。熱すぎず、温すぎない温度がたまらん。身体中がほぐされて、まるでクラゲの気分。

また寝そうになって慌てて顔を洗ってたら、蓋の上で寝てた居候の三毛猫が、「うにゃにゃにゃっ!」とか寝言言いながらも気持ち良さそうに寝てた。腹出して。湯に浸かってる人間より気持ち良さそうだ。

なんか、負けたような気がした。





・12月11日。 漢、伝さん

ソレを見た瞬間、俺は言葉を失った。

伝さん、何て姿に……。

だって、だってさ! グレートデンの伝さんの頭に角が生えてるんだ。あれはどう見ても、某野生動物の多数棲息する観光地で売られてるグッズ、トナカイの角カチューシャ。

あそこのご当地キャラクターは、どうしてかその野生動物の角じゃなくてトナカイの角を生やしてる。だから土産物のそれもそうなってるんだろうけど……偶蹄目繋がりなんだろうか。

そんなしょーもないことを考えながら現実逃避する俺。何故か得意そうな飼い主の吉井さん。

話を聞いてみると簡単なことだった。吉井さん、今年のクリスマスにはサンタクロースに扮して近所の保育園にプレゼントを配りに行くんだそうだ。伝さんはトナカイ役。

普通だったら、そんなもんを頭に付けられた時点で、嫌がって頭を振るなりして取ってしまいそうなもんだけど、伝さんは小ゆるぎもしない。

そう、例えば。

例えば、かのゴルゴ13が菅笠を被り、蓑を着、愛用のライフルの代わりに火縄銃を持っていたとしても。その姿は絶対に<マタギ>ではなく、彼の本来の姿であるところの、超一級のスナイパーにしか見えないだろう。

伝さんもそうだ。通常ならば笑いを誘われるはずのアイテムを身に付けていてさえ、伝さんが伝さんであるところの、グレートデンの雄雄しさ凛々しさは少しも損なわれない。ただ、堂々とそこに立っている。

伝さん、アンタ、漢だよ……。



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