第191話 雑草にも春の訪れ

文字数 914文字

・一月二十一日 霜柱踏み踏み・

寒い朝、犬の散歩。

身体が温まるまではキツイけど、実は楽しいことがある。公園コース限定だけど。

「ドンちゃん、こっち行こうぜ」

セントバーナードのドンちゃんに声を掛けると、「おぅん?」と不思議そうに俺のを見る。そりゃそうだわな、普段通らないとこだもん。

道を少し逸れた土の上、それでもドンちゃんは俺について来てくれる。

ざっくざっくざっく

おー、たまんねー、この感触! ……ドンちゃんはなんか微妙そうだな。まあ俺だって、いいトシをしたオジサンのすることじゃないってのは分かっちゃいるけど。

やめらんない。

だってさ。霜柱踏むの、気持ちいいんだよ!

……一時、霜柱を見るのが辛かったこともあるけどな。もう去年のことだったか……。あの時の高校生、ドラッグを止めることが出来たんだろうか。更正してくれてるといいんだけどな。





・一月二十三日 コタツの誘惑・

肩が寒くてふと気がついたら、俺コタツで寝てた。

足から身体全体が温まると、つい気持ちよくうつらうつらしてしまう。コタツでうたた寝は風邪の元なのに……そういえば、元妻にはよくそれで叱られたっけ。

もう、昔の話だけど……。

……今夜も冷える。いっそ、ここに布団敷いて、コタツに足突っ込んで寝るかなぁ。

「ぶぇっくしゅ!」

あー、くしゃみ出た。ハナも出た。いかんいかん、本当に風邪引いてしまう。ベッドに湯たんぽ入れて、布団が暖まるまでブランデー入りホットミルクでも飲んで待つことにしよう。




・二月二十四日 雑草にも春の訪れ・

朝起きて顔を洗い、歯を磨いて髭を当たり、コーヒーと簡単目玉焼きサンドを食べる。

デザートのバナナを二口くらいで平らげ、さあ、今日も頑張って仕事するぜと事務所兼自宅を出て鍵を掛け、いつものように冷たいコンクリート階段を駆け下りて。

ふと足を止めた。

アスファルトとコンクリートの境目の、細い細い隙間から、タンポポの花が顔を出してたんだ。緑の葉っぱは小さいのに、一輪だけ咲いた花は大きくて、朝日を浴びて眩しいほど鮮やかだ。

梅の花も開いてきたし、春はあっという間だなぁ。
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