第342話 通りゃんせ猫と巻き尺

文字数 684文字

・5月12日 通りゃんせ猫と巻尺

俺がそこに足を踏み入れようとすると、どこからともなくいつもソイツが現れる。

ごろんと腹出して転がって。
パンチでてしてしてし!
キックで蹴り蹴り蹴り!

ごろんごろんごろん。
ぱしっ!
蹴りっ!
噛むっ!

……
……

なー、そこどいてくれよ、ブチの野良猫よ。俺がこの路地を通り抜けようとするたびにそうやって邪魔しに出てくるけど、何でなんだ。──実は構ってほしいのか?

この路地、商店街への近道なのになぁ。じゃれてるつもりなんだろうけど、けっこう本気でパンチとキックを繰り出してくるから、なかなかスルー出来ない。

ここは路地の細道。
だけど、この先に天神様はない。

「猫のくせに、通りゃんせするのはやめてくれー!」

そう言いながらブチ猫を跨ぎ越そうとするのに、さすが、猫パンチと猫キックを駆使して戦闘態勢をとるつわもの。なかなか通してくれない。

しょうがないなぁ……

俺はウエストポーチから使い古しの巻尺を取り出した。一メートルほど引き出して、うりゃうりゃうりゃ! とヤツの目の前で躍らせる。

途端、跳ね起きるブチ猫。両手で捕らえて噛みついて、さらに蹴りを入れよう──としたところで、しゅるん、と引っ張り戻す。その間に位置を入れ替えていた俺は、「じゃーな!」と言い捨てて路地から脱出した。

ふう、ハードなミッションだったぜ。持ってて良かった紐代わり。猫じゃらしに最適だ。

さて、巻尺の本来の用途は計測。これから引越し下見のお手伝いで部屋のあちこちを計りまくらないといけない。通りゃんせ猫になんか構ってられないぜ!

……今度あの路地を通る時は、その辺でエノコロ草でも調達していくか。 
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