第123話 携帯電話の恐怖 7
文字数 2,441文字
風見鶏 ここで説明してあげるのは簡単だけど、自分で調べ
みてごらん。色々面白いことが分かるから。
風 そうなのか……?
風見鶏 ヒントをあげようか。
マスコミに、ある犯罪が取り上げられたとしよう。
昔だったら、必ずその犯罪の容疑者の氏名、年齢な
ども報道されたものだ。
だけど、今は何故か犯人の名前だけがが報道されな
いことがある。あれはどうしてだと思う?
風 え……?
そういえば、テレビニュースなんかを見ていて、殺人事件なのに「あれ? 今のやつ、犯人の名前は?」と首を傾げたことが何度もある。殺人でなくても、同じような罪状なのに、実名が報道される場合と、そうでない場合があって、あれはどういう基準なんだろう? と首を捻ったことも。
風見鶏 新聞を読み比べてみるのも楽しいよ。
容疑者は同一人物なのに、新聞によって名前が違った
りするしね。
風 え、ええ? 何でそんなことが……。
まさか、ペンネームとか、ハンドルネームとか、そういうのを書いてる新聞があるんじゃなかろうな。成人犯罪の場合は、実名報道のはずなんじゃあ?
風見鶏 君は気づいてないみたいだけど。
世の中には、「ある」のに「ない」、または
「ない」のに「ある」とされていることが、
いっぱいあるんだよねぇ……。
<風見鶏>は謎々のようなことを言う。
一体、どういう意味なんだろう? 考えているうちに、新しく打ち込まれた文字が現れる。
風見鶏 あの法律はね、結果的に悪人に隠れ蓑を与えてし
まったんだよ。その影に隠れて、悪事を働くた
めのね。まともな人間のためには、あまりなっ
てはいないね、結局。
──だって、保険の勧誘だの、リフォームのおすすめだの、マンション購入ご案内だの、そういう電話はちっとも減らないだろう?
そう言われると……うーん、確かにそのとおりだ。
風見鶏 そういった業界に何らかの「名簿」が流れている
のは確実だ。つまり、「個人情報」なんて呆気
なく洩れてしまうということ。笊に掬った砂粒
みたいにね。
そして、「個人情報保護」というカーテンによって自分たちの素性を隠した犯罪者たちが、「洩れた個人情報」を、振り込め詐欺を初めとする様々な犯罪に利用しているのだと<風見鶏>は続ける。
風見鶏 非通知のワン切り、あれがその代表的なものだと
言えるだろうね。
どこの誰から掛かってきたのか分からないけど、
リダイヤルすると電話は変なところに繋がり、
後から大金を請求される。犯人の姿は一切見え
てこない。なのに、その犯人からは被害者の姿が
丸見えだ。
ぞくり、と背中が冷えた。
のんびりと草を食む羊の群れを、狙う狼。けど、羊たちは風下にいる狼たちに気づきもしない。羊飼いにも危機感がない。──そんな情景を想像してしまったのだ。
俺も野本君も、その羊の群れのうちの一匹、ということになるんだろうな……。
風見鶏 まあ、そんなに怖がることもない。
羊だって、用心してれば逃げることが出来るし、
逆に、狼に蹴りを入れたり頭突きをかましたり
逆襲することだって出来るんだから。
必要なのは、正しい情報だ。そう<風見鶏>は言う。
風見鶏 振り込め詐欺でも、そういう詐欺がある、と知って
いるのと、知らないのとでは、対応の仕方が全然違
ってくるはずだろう。
風 そうだな……。だけど、どうして振り込め詐欺の
被害が減らないのかな。
ついこのあいだも、振り込め詐欺に引っかかってATMから振込みをしようとしている女性に対し、行員が一時間もかけて説得したのに、それを振り切って百十何万円かを振り込んでしまった、という事件があったよな。
「息子」から「会社の金を横領した。監査が入ったら首になる。だから母さん、二百万振り込んでくれ」と電話があったらしいんだが、もっと息子を信用してやれよ……。
風見鶏 あれだけ警戒を呼びかけられているのに、耳を貸そ
うとしない人が多いのが原因のひとつだろうね。
自分だけは引っかからない。そんなふうに思って
るんだろうけど。
風 でも、引っかかるのにな。
いきなり「警察」や「弁護士」から電話がかかってきてパニックしてしまうのは俺にも分かる。だけど、「警察が示談金の話をする」のはおかしいと思わなくちゃならないし、弁護士を名乗る相手が「今すぐに示談金を払えば……」みたいなことを言っても、それは異常なことだと分からなくちゃいけない。
だって、電話だぜ? 普通、そういう話は顔を合わせてするだろう。
ああいうのには本当に色んなパターンの手口、というか「設定」があるらしいけど、最大の特徴は、性急に金を振り込ませようとすることだ。そこに違和感を持たなければ。そのためには……。
風 ……やっぱり、知らなくちゃいけないことを知ら
ないのがいけないんだな。情報って、本当に大切
なものなんだ。
風見鶏 そうだよ。
We want information. 武力による戦争はなくても、
情報戦は常にある。目に見えない分、わかりにくい
が、個人的には、情報戦、情報操作、そっちの方が
タチが悪いと私は思っている。
みてごらん。色々面白いことが分かるから。
風 そうなのか……?
風見鶏 ヒントをあげようか。
マスコミに、ある犯罪が取り上げられたとしよう。
昔だったら、必ずその犯罪の容疑者の氏名、年齢な
ども報道されたものだ。
だけど、今は何故か犯人の名前だけがが報道されな
いことがある。あれはどうしてだと思う?
風 え……?
そういえば、テレビニュースなんかを見ていて、殺人事件なのに「あれ? 今のやつ、犯人の名前は?」と首を傾げたことが何度もある。殺人でなくても、同じような罪状なのに、実名が報道される場合と、そうでない場合があって、あれはどういう基準なんだろう? と首を捻ったことも。
風見鶏 新聞を読み比べてみるのも楽しいよ。
容疑者は同一人物なのに、新聞によって名前が違った
りするしね。
風 え、ええ? 何でそんなことが……。
まさか、ペンネームとか、ハンドルネームとか、そういうのを書いてる新聞があるんじゃなかろうな。成人犯罪の場合は、実名報道のはずなんじゃあ?
風見鶏 君は気づいてないみたいだけど。
世の中には、「ある」のに「ない」、または
「ない」のに「ある」とされていることが、
いっぱいあるんだよねぇ……。
<風見鶏>は謎々のようなことを言う。
一体、どういう意味なんだろう? 考えているうちに、新しく打ち込まれた文字が現れる。
風見鶏 あの法律はね、結果的に悪人に隠れ蓑を与えてし
まったんだよ。その影に隠れて、悪事を働くた
めのね。まともな人間のためには、あまりなっ
てはいないね、結局。
──だって、保険の勧誘だの、リフォームのおすすめだの、マンション購入ご案内だの、そういう電話はちっとも減らないだろう?
そう言われると……うーん、確かにそのとおりだ。
風見鶏 そういった業界に何らかの「名簿」が流れている
のは確実だ。つまり、「個人情報」なんて呆気
なく洩れてしまうということ。笊に掬った砂粒
みたいにね。
そして、「個人情報保護」というカーテンによって自分たちの素性を隠した犯罪者たちが、「洩れた個人情報」を、振り込め詐欺を初めとする様々な犯罪に利用しているのだと<風見鶏>は続ける。
風見鶏 非通知のワン切り、あれがその代表的なものだと
言えるだろうね。
どこの誰から掛かってきたのか分からないけど、
リダイヤルすると電話は変なところに繋がり、
後から大金を請求される。犯人の姿は一切見え
てこない。なのに、その犯人からは被害者の姿が
丸見えだ。
ぞくり、と背中が冷えた。
のんびりと草を食む羊の群れを、狙う狼。けど、羊たちは風下にいる狼たちに気づきもしない。羊飼いにも危機感がない。──そんな情景を想像してしまったのだ。
俺も野本君も、その羊の群れのうちの一匹、ということになるんだろうな……。
風見鶏 まあ、そんなに怖がることもない。
羊だって、用心してれば逃げることが出来るし、
逆に、狼に蹴りを入れたり頭突きをかましたり
逆襲することだって出来るんだから。
必要なのは、正しい情報だ。そう<風見鶏>は言う。
風見鶏 振り込め詐欺でも、そういう詐欺がある、と知って
いるのと、知らないのとでは、対応の仕方が全然違
ってくるはずだろう。
風 そうだな……。だけど、どうして振り込め詐欺の
被害が減らないのかな。
ついこのあいだも、振り込め詐欺に引っかかってATMから振込みをしようとしている女性に対し、行員が一時間もかけて説得したのに、それを振り切って百十何万円かを振り込んでしまった、という事件があったよな。
「息子」から「会社の金を横領した。監査が入ったら首になる。だから母さん、二百万振り込んでくれ」と電話があったらしいんだが、もっと息子を信用してやれよ……。
風見鶏 あれだけ警戒を呼びかけられているのに、耳を貸そ
うとしない人が多いのが原因のひとつだろうね。
自分だけは引っかからない。そんなふうに思って
るんだろうけど。
風 でも、引っかかるのにな。
いきなり「警察」や「弁護士」から電話がかかってきてパニックしてしまうのは俺にも分かる。だけど、「警察が示談金の話をする」のはおかしいと思わなくちゃならないし、弁護士を名乗る相手が「今すぐに示談金を払えば……」みたいなことを言っても、それは異常なことだと分からなくちゃいけない。
だって、電話だぜ? 普通、そういう話は顔を合わせてするだろう。
ああいうのには本当に色んなパターンの手口、というか「設定」があるらしいけど、最大の特徴は、性急に金を振り込ませようとすることだ。そこに違和感を持たなければ。そのためには……。
風 ……やっぱり、知らなくちゃいけないことを知ら
ないのがいけないんだな。情報って、本当に大切
なものなんだ。
風見鶏 そうだよ。
We want information. 武力による戦争はなくても、
情報戦は常にある。目に見えない分、わかりにくい
が、個人的には、情報戦、情報操作、そっちの方が
タチが悪いと私は思っている。