第241話 2:50はえがたいむ

文字数 1,824文字

・10月11日 テーブルに熱いキス

今日の依頼を全てこなした後、事務所(といっても自宅)に帰って経理関係の事務処理をしてたら、いつの間にか居眠りしてた。

ハッ、と気づくと熱いキッスをかましてた。
テーブルに。

パソコンを置いたローテーブルに突っ伏して、顔を押し付けるようにして寝てたらしい。天板に、思いっきり唇の痕がついてる。

まだ脳味噌が半分眠気に侵されたままぼんやりそれを眺めていたら、くしゃみが出た。いかんいかん、新型インフルエンザの脅威が叫ばれる今日この頃、ウィルスなんかに隙を見せてる場合じゃない。

消毒になんちゃってビールでも飲んで、風呂入って寝よう。ん? 俺、晩飯食べたっけ? あれ? 

……

ボケるにはまだ早い。ビールの前に、熱い味噌汁ぶっかけた納豆飯でも食うか。





・10月20日 2:50はえがたいむ

ご近所情報によると、新しくこの辺りに越して来た人が、イグアナだかトカゲだかを飼っているらしい。

そんなことは無いかもしれないけど、いつか捕獲の依頼が入らないとも限らない。そんなわけで、爬虫類の種類とその特性とか、捕獲の仕方とか調べようと思い、ネットで検索かけてたんだが……。

何で? 何で急に繋がらなくなったんだ? 俺、何も悪いことしてないのに……って言うと、PCに詳しい人からは「何かしなければ、パソコンがおかしくなるはずがない」って怒られるんだけど、普通にぐぐってただけなんだぜ?

<タイムアウトしました リトライしますか?>

何度やっても同じじゃないか。

<指定のアドレスが見つかりません>

いや、さっきまで普通に表示してただろ?

よく分からないけど、これって、ネットに接続出来ないってことなのか?
……それなら、俺にはどうしようもない。うーん、これは元義弟の智晴に頼むしかないか。やつはデイトレーダーという自由業だから、忙しくなければ&気が向けば、昼間でも来てもらえるだろう。

溜息をつきながら二つ折りタイプの自分の携帯を開き、智晴のスマホの短縮番号を押そうとして、ふと気づく。

現在時間、午後二時五十分。

三時前のこの時間帯、ほんの十分か十五分のことなんだけど、どうしてか、智晴はあまり電話に出てくれない。以前理由を聞いたら、えがたいむ? がどうとか言ってた。何だろう、えがたいむって。映画タイム?

まあいいや。切羽詰ってるわけじゃなし、三時過ぎてから掛けよう。





・10月31日 立体パズルは難しい

目の前で、べそをかいてる女の子。
眉をハの字にして、困り果ててるそのお父さん。

俺たちが囲んでいるテーブルの上には、謎の物体。シュールというより、グロテスク。

「それ、何とか元に戻してもらえないでしょうか」

これを、ですか。

「私、どうもこういうものが苦手で……まさか、そんなものが立体パズルになってるなんて……」

はい。俺も初めて見ました。ってか、俺もパズル苦手です。ルービックキューブですら、一度も全部合わせられたことがないのに。

「普通のキ○ィちゃん人形だと思って買ったのに、何故立体ルービックキューブになってるんでしょう……」

そう、テーブルの上に転がっている謎の物体は、ハロー○ティ立体ルービックキューブのなれの果て。

箱から出したお父さんが、何気なく耳についてるリボンを引っ張ったらその部分が動いて。慌てて両手で持ってひねったら、他の部分が動いて。そうして、気がついたら鏡対称というか、線対称というか、ボディの右半分と左半分が反対方向を向いてる始末。

説明書を見れば、組み立て方が分かりませんか? という俺の問いに、お父さんは項垂れた。

「フリマで買ったものなので……」

マニュアルは無いってことですね。

「あなたを、何でも屋さんと見込んでお願いします。これ、元に戻してください。後生ですから」

両手で拝まれても……。

ああ、困った。どうしよう。いくら<何でも屋>たって、得手不得手があるんですよ、お父さん。

ああ、俺の何でも屋生命が!(って言うほどのことでもないけどさ)

こういう時は……こういう時は……<風見鶏>に頼ってみよう。きっとネットの海のどこかから、立体パズルキテ○ちゃんの崩し方と組み立て方を探してきてくれるだろう。

世の中は持ちつ持たれつ。俺だって<風見鶏>の役に立ってるらしいし、これぐらい頼んだってバチは当たらないだろう。

うーん、他力本願。みっともないな、俺……。

……
……

いいや! そんなことはないぞ、俺。人脈(?)だって実力のうちだ! うん。そういうことにしておこう。
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