第344話 青梅の誘い

文字数 545文字

・6月14日 青梅の誘い

今日は梅仕事のお手伝い。

半日水に漬けてあった青梅を取り出して水気を拭いてヘタ取ってをやってるうちに、なんか酔っ払ったような気分になってきた。

甘いような酸っぱいような、爽やかなんだけど、どこか重い芳香が充満しすぎて──

ハッとして頭を振る俺、危ない危ない。このまま齧ったら美味そうだなぁ、とか考えてしまった。そりゃ、一個齧ったくらいじゃ死にゃしないだろうけど、青梅が毒と分かってて食べるなんてただのバカだもんな。

だけど、美味そう──

「何でも屋さん? どうしたのそんなに見つめて。その梅、虫喰ってた?」

大きな瓶に、塩と揉んだ赤紫蘇と俺が拭いてヘタ取った青梅を交互に詰めてた婆ちゃんが、不思議そうに声を掛けてくる。

「え? いえいえ、俺が喰いそうになってました」

正直に答えたら、婆ちゃんウケてた。

「娘もねぇ、昔そんなこと言ってたわ。ダメよ、それは青梅に化かされてるのよ」

そんで、休憩しましょうかと言って、熱い味噌汁と梅干おにぎりと梅シロップのジュースをふるまってくれた。

腹が温まって、ふう、と満足の溜息が出る。美味しかったです、ごちそうさま、と感謝すると、婆ちゃんは「梅は平らげたから、もう大丈夫ね」とにっこり笑う。


ユーモアのあるお婆ちゃんの、人を喰ったならぬ、梅を喰った話。
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