第128話 携帯電話の恐怖 12
文字数 2,201文字
風見鶏 マニアってさ。どんなとこにもいるんだよねぇ……。
思わず遠い目をしてしまうよ、と<風見鶏>は続ける。
風見鶏 驚いたことに、リピーターがいるんだよ、あの番号の。
風 え? リピーターっていうと、怖いの分かってて何度
もかけてくるってこと?
風見鶏 そう。解析によると、全パターンをコンプリートした
ブラック番号がいくつか。
風 コンプリートって……ポケ○ンカードじゃないんだ
から……。
俺も遠い目をしたくなってきたじゃないか。
風 野本君の番号に、そういうブラックな番号からかか
って来た場合は、絶対に本人の携帯には繋がらな
くて、あんたの仕掛けた<恐怖の自動応答>に繋がる
ようになってるんだよな?
風見鶏 そうだよ。なんだろう、お化け屋敷感覚なのかねぇ。
どうやら密かにウケてるらしいんだ、その手の電
話詐欺系の人間たちに。
風 テレクラかよ!
思わず俺は力を入れてキーボードを叩いてしまった。
後日談。
<風見鶏>ととってもシークレットでクローズドなチャットをしてから数週間後。野本君はめでたく内定をもらうことに成功した。独自技術を武器に、「小」から「中」にステップアップしてきた企業だそうだ。
ゆくゆくは営業に回されるだろうということだが、そのためには自社の製品について知らなければならないということで、まずは製造工場からスタートするらしい。
まだ大学の授業はあるから、卒業まではアルバイトという形で、少しずつその会社に慣れていくようにするのだという。
「良かったな。おめでとう」
俺の言葉に、野本君は恥ずかしげに頬を赤くして小さく礼を言った。
「ありがとうっす……じゃなかった、ありがとうございます。俺、言葉遣いがいい加減ですよね。気をつけないと……」
「ま、いいんじゃないか? 仕事先でさえしっかりしてたら。プライベートまでそんなに気を張ることないって。でないと疲れるぞ」
『人生のセンパイの言うことは聞いておきなさい!』なあんて胸を張るふりして見せたらツボったらしく、野本君は吹き出した。
「うーん、そうかも。そうですよね」
「そうだよ。TPOさえしっかりしてたら、それでいいのさ」
「それって、空気を読むのが重要、ってこと?」
「どっちかというと、基本を大切に、ってことだと思う。基本てのはつまり、常識だ。たとえばさ、葬式に行くのに、ライブの時みたいな格好しないし、そのことに何の疑問も持たないだろ? それは君に常識が備わってるからだ」
「備わってるかな、俺……」
まだまだ自信なさげな野本君に、俺は大きく頷いてやった。大丈夫だよ、ネクタイのノットをきれいに結べるよう努力した君なら。
「ところで、最近どう? 携帯は」
俺は出来るだけ平静な顔で、だけど内心は恐る恐る訊ねてみた。アヤシイ人たちに人気らしい彼の携帯番号……本人に影響が無いならいいんだけど……。
「携帯? ああ、変わりないです。妙な電話はぴったり止まったし、そういう意味では快適だな」
「そっか。良かったなぁ」
俺はホッとした。こんなに何にでも一所懸命で真面目な野本君が、楽して金を儲けようとするような詐欺師なんかに煩わせられなくなって、本当に良かった。
「あ、携帯といえば……」
何かを思い出そうとするように、野本君はふと顔を上げた。
「昨日のことなんだけど、別学部の先輩から声を掛けられたんですよ。その人、殆ど大学に出て来ないんで、来年も留年らしいって噂なんですけど、何だか……」
妙な感じだったのだという。
「俺、その人のこと、全然知らないんですよ。でも、一緒にいたツレがその人と同じ学部だったんで、しばらく三人でちょっとした世間話? みたいなことしてたんだけど、何でかな、すんごく唐突に俺の携帯番号聞いてきたんですよ」
「な、ナンパじゃないよな?」
「何で俺が男にナンパされなきゃならないんすか……」
焦ってトンチンカンな心配をした俺に、野本君は呆れたように唇を尖らせてみせた。
「ごめん、ごめん。それで?」
片手で拝むようにしながら謝ってみせると、野本君も怒っているふりをやめて続きを話してくれた。
「えっと。今使ってる着メロ、うちのバンドのオリジナル曲で、俺の作曲したやつなんですよ。ツレがそのことを話したせいかもしれないけど、着メロ聴いてみたいって言い出して……その場で、登録したばっかりの俺の携帯にかけてきたんです」
「ちゃんとかかったのか?」
「もちろん」
頷きながら、野本君は携帯を操作してその曲を聴かせてくれた。
うーん、よく分からんが、ヘビーでメタルな感じ。今の温和な印象の野本君からは想像出来ないかも。けど、彼が真面目にバンド活動してた頃の格好なら、こういうのが似合っただろうなぁ。
そんなことを考えながらぼーっとしていると、さらに野本君は続けた。
「そしたらその先輩、ぼそっと……」
──何だ、普通にすると普通にかかるんだな。
「って、言ったんだけど……これ、どういう意味だと思います?」
思わず遠い目をしてしまうよ、と<風見鶏>は続ける。
風見鶏 驚いたことに、リピーターがいるんだよ、あの番号の。
風 え? リピーターっていうと、怖いの分かってて何度
もかけてくるってこと?
風見鶏 そう。解析によると、全パターンをコンプリートした
ブラック番号がいくつか。
風 コンプリートって……ポケ○ンカードじゃないんだ
から……。
俺も遠い目をしたくなってきたじゃないか。
風 野本君の番号に、そういうブラックな番号からかか
って来た場合は、絶対に本人の携帯には繋がらな
くて、あんたの仕掛けた<恐怖の自動応答>に繋がる
ようになってるんだよな?
風見鶏 そうだよ。なんだろう、お化け屋敷感覚なのかねぇ。
どうやら密かにウケてるらしいんだ、その手の電
話詐欺系の人間たちに。
風 テレクラかよ!
思わず俺は力を入れてキーボードを叩いてしまった。
後日談。
<風見鶏>ととってもシークレットでクローズドなチャットをしてから数週間後。野本君はめでたく内定をもらうことに成功した。独自技術を武器に、「小」から「中」にステップアップしてきた企業だそうだ。
ゆくゆくは営業に回されるだろうということだが、そのためには自社の製品について知らなければならないということで、まずは製造工場からスタートするらしい。
まだ大学の授業はあるから、卒業まではアルバイトという形で、少しずつその会社に慣れていくようにするのだという。
「良かったな。おめでとう」
俺の言葉に、野本君は恥ずかしげに頬を赤くして小さく礼を言った。
「ありがとうっす……じゃなかった、ありがとうございます。俺、言葉遣いがいい加減ですよね。気をつけないと……」
「ま、いいんじゃないか? 仕事先でさえしっかりしてたら。プライベートまでそんなに気を張ることないって。でないと疲れるぞ」
『人生のセンパイの言うことは聞いておきなさい!』なあんて胸を張るふりして見せたらツボったらしく、野本君は吹き出した。
「うーん、そうかも。そうですよね」
「そうだよ。TPOさえしっかりしてたら、それでいいのさ」
「それって、空気を読むのが重要、ってこと?」
「どっちかというと、基本を大切に、ってことだと思う。基本てのはつまり、常識だ。たとえばさ、葬式に行くのに、ライブの時みたいな格好しないし、そのことに何の疑問も持たないだろ? それは君に常識が備わってるからだ」
「備わってるかな、俺……」
まだまだ自信なさげな野本君に、俺は大きく頷いてやった。大丈夫だよ、ネクタイのノットをきれいに結べるよう努力した君なら。
「ところで、最近どう? 携帯は」
俺は出来るだけ平静な顔で、だけど内心は恐る恐る訊ねてみた。アヤシイ人たちに人気らしい彼の携帯番号……本人に影響が無いならいいんだけど……。
「携帯? ああ、変わりないです。妙な電話はぴったり止まったし、そういう意味では快適だな」
「そっか。良かったなぁ」
俺はホッとした。こんなに何にでも一所懸命で真面目な野本君が、楽して金を儲けようとするような詐欺師なんかに煩わせられなくなって、本当に良かった。
「あ、携帯といえば……」
何かを思い出そうとするように、野本君はふと顔を上げた。
「昨日のことなんだけど、別学部の先輩から声を掛けられたんですよ。その人、殆ど大学に出て来ないんで、来年も留年らしいって噂なんですけど、何だか……」
妙な感じだったのだという。
「俺、その人のこと、全然知らないんですよ。でも、一緒にいたツレがその人と同じ学部だったんで、しばらく三人でちょっとした世間話? みたいなことしてたんだけど、何でかな、すんごく唐突に俺の携帯番号聞いてきたんですよ」
「な、ナンパじゃないよな?」
「何で俺が男にナンパされなきゃならないんすか……」
焦ってトンチンカンな心配をした俺に、野本君は呆れたように唇を尖らせてみせた。
「ごめん、ごめん。それで?」
片手で拝むようにしながら謝ってみせると、野本君も怒っているふりをやめて続きを話してくれた。
「えっと。今使ってる着メロ、うちのバンドのオリジナル曲で、俺の作曲したやつなんですよ。ツレがそのことを話したせいかもしれないけど、着メロ聴いてみたいって言い出して……その場で、登録したばっかりの俺の携帯にかけてきたんです」
「ちゃんとかかったのか?」
「もちろん」
頷きながら、野本君は携帯を操作してその曲を聴かせてくれた。
うーん、よく分からんが、ヘビーでメタルな感じ。今の温和な印象の野本君からは想像出来ないかも。けど、彼が真面目にバンド活動してた頃の格好なら、こういうのが似合っただろうなぁ。
そんなことを考えながらぼーっとしていると、さらに野本君は続けた。
「そしたらその先輩、ぼそっと……」
──何だ、普通にすると普通にかかるんだな。
「って、言ったんだけど……これ、どういう意味だと思います?」