第178話  ノーム村を探索

文字数 1,938文字


 さらに歩きまわる。
 ノームたちにちょうどいいサイズ感で作られた村だから、コビットと化した僕らには村がやたらと、だだっ広い。
 ぽよちゃんは小さくされてなかったので、背中に乗せてもらって移動すると、ちょうどよかった。けっこう揺れるけど、らくちんだ。

 ノームの店に入ってみたけど、よく考えたら、本来の大きさに戻ったとき、商品はどっなってるんだろうか?
 ミャーコポシェットに入れておけば、僕らといっしょに大きくなるのか?
 それとも、四次元ポケットのなかまでは魔法が効かず、もともとの大きさのままなのか?
 いや、これまで装備品って、身につける人の体にあわせて伸びたり縮んだりした。ということは、ノーム用の武器でも、僕が持てば、僕サイズになるってことなんだろうか?

 とは言え、武器や防具はそれほど気になるものはなかった。廃墟の亡霊店主から高品質のものを買ったからだ。呪いつきだけどね。

 ゆいいつ、精霊石屋というのがあって、そこで僕は精霊石を爆買いしてしまった。精霊石は人間の街では決して売っていないだろう。

「ねえ、おじさん。こっちの石にはなんの魔法が入ってるの? みんな凍りつけ? ちょうだい。こっちは? みんな、死なないでェー? ちょうだい。これは? ちょっとずつ元気? 何それ。聞いたことないけど、ちょうだい。これは? えっ? しつこい? もう、このへん全部、まとめてちょうだい。お金ならあるんだよね。へっへっへ」

 大金を拾いまくる特権をいやらしく行使する。ふひひ。

「お客さんさぼ。そんなに買っても、装備品にあわせて形を整えてもらわないと、そのままじゃ使えないさぼ」
「あっ、そうか」
「人間には精霊石を細工できる者はいないさぼ。グバディに頼むといいさぼ」
「村一番の腕のいい細工師か」
「グバディはすごいさぼ。天才さぼ」

 グバディの家を教えてもらって訪問した。村外れの(かし)の大木の近くに、その家はあった。
 グバディは見たところ、冴えないおじさんだった。コビットっぽい丸っこい顔で、ノームにしては小さい。いつも鼻歌を口ずさんでいる。

「じゃあ、グバディさん。この剣にあわせて、この精霊石を加工してもらってもいいですか?」
「あははー。いいだば。やるだば。だけんど、一年はかかるだば」
「えっ? 一年?」
「イヤだばか?」
「イヤじゃないけど、それまでこの村で待ってるわけにはいかないんで」
「一年後にまた来るだば。それまでには仕上げておくだば。あははー」

 ほんとに天才なのか?
 このちっこいおじさん。

 しょうがないので、僕は精霊石を三個、グバディに預けた。お代は前払いだ。
 これで次にこの村にやってきたときの楽しみが、また一つ増えたぞ。




 翌朝。
 僕らはまだ早朝のうちに目をさました。鳥の声がさわがしいほどに響く。

 おだやかなノームの村。

 次にここへ来るときは、僕らはひとまわりも、ふたまわりも大きくなっているだろう。いや、コビット王の剣でプチッとやってもらえば大きくなるんだけどさ。そういう意味じゃなくて。

「ナッツ。元気でね。装備品はあげるよ。がんばって訓練して」
「ありがとう! 兄ちゃん。気前いい!」
「村に何かあったときは、みんなを守れるようにね。装備品がないと困るだろ?」
「うん」

 僕はオマケで、昨日買った精霊石の一つをナッツにプレゼントした。回復魔法が入ってるから、きっとナッツの訓練の役に立ってくれるはずだ。

「じゃあ、長老。ありがとうございました。平原のバケモノは約束どおり、僕たちが倒しますからね」
「だばだば。よろしくだば」
「気をつけて行くさぼ〜」

 長老の家族やナッツに見送られて、僕らはノーム村を発った。
 村を出たところで、クピピコにコビット王の剣で刺してくれるよう頼む。

「そっとやってよ? ほんとに、そっとだよ?」
「いさい承知でござる」
「あっ、その前に何か話しときたいことあったら言ってよ? 大きくなったら、また言葉が通じなくなるから」
「ふむ。では、これだけ言わせてもらおう」
「何?」
「拙者のコビット語が標準語でござる。ノームはちと訛っておるな」
「そ、そうだね」

 そこ、気になってたんだね。

 僕らは順番に、コビット王の剣でつついてもらった。チクンとした痛みとともに、体が大きくなっていく。

「ああ、戻ったぁー。ニ〇スの冒険みたいで楽しかったけど、ずっとだと困るよね」
「ナッツは小さいまんまで大丈夫だらか?」
「悪い魔法じゃないから平気なんじゃないかな」
「そげか」
「クピピ、コピコ。ピコ」

 あっ、やっぱりまたわからなくなった。コビット語。

「じゃあ、クピピコは、ぽよちゃんに乗っててね。出発しよう。今日中に文明圏に帰れますように!」

 おとぎ話の世界のようだったノームの村を、僕らはあとにした。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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