第15話 超絶美青年

文字数 1,037文字



 ぼ、僕は夢を見てるんだろうか?
 いや、夢だけどさ。
 僕の夢のなかに蘭さんや猛や三村くんが出てくるのは、まあわかる。
 王様が蘭さんのお父さんの九重(ここのえ)さんにそっくりなのもわかる。

 それにしても、これはなんだ?
 なんで、だって、あの人は僕の想像のなかにだけ存在する産物だ。これまでも夢のなかでは何度か見たことあるけど、それも夢特有のなんとなくぼんやりした感じだった。

 なのに今、緋毛氈をふんで王の間へ入ってきたのは、僕の知ってる人だった。もう、ひとめでわかった。なにしろ、僕は彼の親だ。彼の生まれてからこれまでの生い立ち、素性、気性、学歴、なんなら女性遍歴も、何もかも知っている。貯金の額は計算しないとすぐには言えないが、概算はできる。

 それは僕が書いた小説の主人公だ。
 それも一番たくさん書いて、もっとも長いつきあいの主役。
 たぶん、最初に書いたのは高校二年生のとき?

 長い巻き毛の金髪をなびかせて、キラキラ鱗粉(りんぷん)みたいに光る、ちょっと不思議なブルーアイズ。
 かっ……カッコイイ。
 うちの兄ちゃんもかなりイケメンだけど、もうそんなんじゃない!
 この人、人間じゃない。
 いや、じっさいそうなんだけど、夢の世界のなかで見ても、めちゃくちゃな美形だ。

 ワレスさんですね。
 えーと、ご存知なきかたは、『ジゴロ探偵シリーズ』や、『墜落のシリウスシリーズ』などをご覧ください。

 うわぁ。スゴイなぁ。
 動くワレスさん。
 白銀のよろいをまとい、金糸の房つきの紫色のマントを羽織っている。
 主役オーラがハンパない。

 もしかして、世界のどこかにいるっていう勇者はこの人かな?
 蘭さんよりは(って言ったら蘭さんに叱られるけど)じゃっかん、男っぽい。背も高いし。細身で手足長い感じは蘭さんと似てるよね。

 見るからに生まれながらの王子様なんだけど、彼は武人らしい美しい立ち居振る舞いで玉座の前にやってくると、そこにひざまずいた。

「ココノエ王。拝謁(はいえつ)しごく。わが名はワレス。ボイクド国の騎士長にございます。らんらん姫を迎えにまいりました」

 あっ、王子様じゃないのか。
 あれ? 王様や蘭さんの顔色が変わったぞ。
 えっと、つまり、これは……。

「わが国の国王陛下のご命令にございます。陛下は姫との婚儀を心待ちにしておいでです」

 むーん。蘭さんがお城から逃げだしたことが、もうバレてしまったのか。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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