第323話 僕らは怪しんだ
文字数 1,529文字
このまま、クラウディ村を逃げだすことは、なんとかできる。
でも、それじゃ、残された村人はどうなってしまうんだろう?
悪い魔法にかかった村人を放置していくのか?
ワレスさんはどうするのかなぁ?
僕が尻尾をふるぽよぽよみたいに見えたのだろう。ワレスさんは笑った。
「このまま村人を放置して逃げきっても、ヤドリギに操作された本人が追ってくれば、また同じことが起こる。根源を断たなければな」
「そうですよねぇ〜」
だけど、ヤドリギに憑依されてるのは誰なんだろう?
見当もつかない……わけでもないか?
やっぱり、怪しいのは、イケノくんだよね?
ヤドリギにあやつられたまま逃亡したし、僕らがちょうどこの村に到着するタイミングで帰ってきてたのも怪しい。
僕はイケノくんのステータスをモニターで確認してみる。まだ完全な仲間じゃない。NPCだから詳細までは見れない。わかるのはレベルと職業と装備品のみ。前に猛を見たときといっしょだね。
職業は、元ミルキー城兵士。
レベルは25。
あれ? 僕らより低いんだ。
僕ら、決戦前だからって入念に特訓したからね。
装備品はアンドーくんの初期装備と同じ、竜鱗のよろいに似たやつ。
それ以外はわからない。
どうなんだろうなぁ?
ヤドリギのカケラに取り憑かれてるかどうかって、どうにかして見わけられないかなぁ?
腕組みしてイケノくんを凝視していると、アンドーくんがハラハラして、こっちをながめてきた。
友達だもんね。
幼少時からともに学び、ともに遊び、成長してきた幼なじみ。
たぶん、アンドーくんも内心は疑ってるんだろうけど、信じたい気持ちも強いんだろう。
僕だって、現実の世界でのイケノくんなら信じた。
イケノくんはマジメで照れ屋で友達思いで、カラオケで酔っぱらうとマイクを離さない。しかも、あんまり歌はうまくない。自宅の部屋にはミニカーがいっぱい飾ってあった。得意教科は科学で、苦手は古文。初恋の人は中学のときの音楽の先生だ。
よく知ってるなぁ。僕。
だけど、この世界のイケノくんのことは知らない。
ヤドリギの使う変な魔法もあるし、信用できるかと言われれば、かなりためらうよ。
イケノくんは自分でも、そんな空気を感じたらしい。あわてたようすで首をふる。
「わじゃないよ? わからんかもしれんけど、わはどこもおかしくない」
が、蘭さんが遠慮がちに口をひらく。
「あの……僕の危険察知で、妙な気配を感じます。すぐ近くからです。半径五メートル以内に、ヤドリギに取り憑かれてる人がいますね」
うーん。それはもう決定なのでは?
思えば、イケノくん、やけにいいタイミングで僕らを助けに出てきたし。
最初からヤドリギにあやつられてたんじゃ……?
すると、ワレスさんが僕らをかきわけて前に出る。じっと神秘的な青い瞳で、イケノくんを見つめる。
出たー! ミラーアイズ!
いいなぁ。透視。一生に一回でいいから、やってみたい。
えっ? 僕は女の子のスカートのなかなんか見ないよ。失礼な。
つかのま、ワレスさんはX-RAYのように双眸を輝かせていた。が、やがて首をふる。
「違うな。コイツじゃない」
「えっ? そうなんですか?」
「少なくとも、コイツには取り憑いているものはない」
そうなんだ。イケノくんじゃなかったのか。じゃあ、やっぱり、僕らから逃げだしたあと、自然にカケラが出ていったんだ。
かーくん、反省。
根拠もなく人を疑っちゃいけないね。
「だが——」
ん? ワレスさんの言葉、まだ続いてた。
「だが、見えた。ヤドリギにあやつられているのは——」
ん? 誰ですか?
ワレスさんが言いかけたときだ。
僕らの前に思いがけない人が立ちふさがった。
えっ? まさか、この人が?