第139話 そろりと侵入

文字数 1,153文字



 窓は両扉だ。
 そう。引き戸ではなく、まんなかでパカンとひらくやつ。だから、掛け金が半分あがれば、窓はあけられるってわけだ。

 僕は音を立てないように細心の注意をはらって、そうっと窓をあけた。猛や三村くんやアンドーくんでは厳しいかもだけど、なんとか僕くらいのサイズなら窓から出入りができる。

 誰も見まわりに来ませんように。

 神様に祈ってから、僕はトーマスの寝室に忍びこむ。窓辺の鉢を壊さないように外へ出してから、出窓に腰かけるようにして、なかへ入っていった。
 ぽよちゃんと、たまりんもついてくる。

 トーマスの枕元に立った。
 外から見たより容体の悪化が、ハッキリ確認できた。息をしているように見えない。僕は大急ぎでミャーコポシェットからホワイトドラゴンのウロコをとりだした。

 えーと。とりだしたのはいいけど、これをどうしたらいいんだろう?
 フェニックスの羽は体をなでたらよかったんだよな。ちょっとやってみようかな。

 僕はホワイトドラゴンのウロコをトーマスの胸の傷の上に置いた。ホワイトドラゴンのウロコは真珠質の澄んだガラスのようだ。

 けど、そのウロコをトーマスの胸に置いたとたんだ。
 ホワイトパールのように輝いていた鱗片(りんぺん)が、みるみる黒ずんでいく。半紙に墨汁がしみていくように、見るからに毒々しい黒カビのような色が点々と浮きだす。それはほんの数分でウロコ全体に広がり、さらに濃縮されたような漆黒に染まった。

 もうこれ以上は黒くならないだろうと思えたとき、ホワイトドラゴンのウロコは役目を終えたかのように、パリンと儚い音をあげて割れた。そのまま霧となって消えてしまった。

 トーマスの顔色は格段によくなっている。血色がもどり、胸が力強く上下する。トーマスをむしばんでいた竜毒は浄化された。あとは純粋に傷の経過と体力か。

 僕は「もっと元気になれ〜」と笑顔でささやいた。魔法ってスゴイな。あれだけ深くえぐれていた傷が、またたくまにふさがれていく。

 ぽかりと、トーマスが目をあけた。
「……あれ? おれ、どうしたんだっけ? えーと、ん? かーくんさん?」

 気づいてくれたのは嬉しいんだけど、トーマスは自分の置かれた状況を理解してない。

「あーれ? おれ、なんで実家に帰ってるんだっけ? お城は? シルキー城」

 声が大きいんだよぉ。
 あわてて、僕は事情を説明しようとするんだけど、その前にトーマスは自分がケガをしたときのことを思いだした。

「ああーッ! そうだ。城が! シルキー城が魔物の軍団に襲われて——たいへんだ! 早く王家のかたがたを助けに行かないと!」

 わあッ、叫んじゃったよ。
 ど、どうしよう。
 ヤツが——ゴードンが来る!
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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