第205話 一人になったものの
文字数 1,280文字
裏庭を出ると馬屋があり、ザクロに似た花の咲く木がたくさんあった。外壁にそって柱廊がある。
そこを歩いていたときだ。
んー? なんか、つけられてる?
キョロキョロすると、柱のうしろから男が出てきた。しかも四、五人。
アッ! 汽車の旅でいっしょに戦っ(て、えっらい迷惑かけてくれ)た変なおっさん、ダルトさんがいる。みんなのうしろでヘコヘコしてる。
先頭は背の高い男だ。
ボディビルダーの大会で見るのが、一番、自然な感じ。ピンピン立てた短めの黒髪で、一般的な男の好むカッコイイ男かな。僕の好みじゃない。足は長いな。
でも、となりのお姉さんは好みだ!
ストレートの金髪を頭のてっぺんでポニーテールにして、皮のひたい飾りや、肩パット、胸あてなんかをつけた女戦士っぽい美人。めっちゃ大きな大剣を背中に背負って勇ましい。
金髪かっ? やっぱり僕、金髪フェチなのかっ? なのかな……?
「よう。兄ちゃん。おまえか? ワレス騎士長がひろってきた新しいお気に入りってのは?」
ん? そんなふうにウワサされてるんだ? ダルトさんのせいかな?
「えーと、あなたは?」
男はニヤリと笑った。
この人も一筋縄ではいかない感じ。
「おれの名前を知らないのか。そんなやつ、もぐりだろ?」
「すいません。この国のことに、うといので」
知らないなぁ。
僕の小説の登場人物じゃない。
ダルトさんがうしろのほうから口を出した。
「小僧。よく聞け。このおかたはな。傭兵隊長のデギルさまだ。おまえなんか足元にもおよばないほど強いんだぞ」
「あっ、そうですか。どうも。初めまして」
「…………」
なんだろうか? この独特の間。
やっぱり、ぽよぽよだと思われたんだろうか?
「……ま、いい。おまえ、そこそこ強いんだってな? どうだ? おれの隊に入らないか? 近衛騎士なんて、お坊ちゃんの身のまわりのお世話をするばっかりで、つまんないぜ? こっちのほうが冒険できる」
おっとぉー。ヘッドハンティングだーっ!
僕、ぽよぽよじゃない?
ちょっと嬉しいかも。
そこそこって言われるのがシャクな気もするけど、まだレベル低いんで、いたしかたあるまい。
でも僕、ワレスさんが大好きなんだよー。離れたくないんだよー。
「すいません。僕、リーダーじゃないんで。決定権はリーダーにあります」
「ふうん? おまえのリーダーは?」
「ここにはいませんよ?」
「ちょっと手あわせしてみないか?」
なんで、そうなるんだ?
「いえ。けっこうです」
「逃げるのか? こっちはおれ一人でいいんだぜ?」
んー、今、アンドーくんいないしな。
火力は僕とぽよちゃんがいるんで問題ないけど、補助魔法が足りてない。
「いえ。僕、初対面の人と、そういうのしない主義なんで」
「さっき、ワレス騎士長とは一戦まじえたんだろ?」
「そりゃ憧れの人ですからっ!」
あっ、男が仏頂面になった。
気分を悪くしたらしい。
「まあ、そういうなよ。稽古つけてやるって言ってんだよ」
ああ……強引に戦闘にもちこむタイプ?
てか、これって僕、不良にからまれた中学生?
うーん。猛、助けにきてくれないかなぁ……。