第158話  やっぱりそういうことなのか!

文字数 1,347文字



 人間がモンスターに——
 そうじゃないかと考えないではなかった。

 ギルドを襲ったモンスターが、倒れたあと人間になったこと。
 モンスターを積んで出ていき、人間をさらって帰ってくるキャラバン。
 装備品だけ残して消えた人々。
 怪しげな古代魔法の実験。
 そのすべてが、ただひとつの事実を示している。

 ヤツらはここで人間を魔物に作りかえている!
 この廃墟の城は、人間を原材料にしたモンスター製造工場なんだ。

「よしッ。こいつも勇ましい竜兵士になったな。すぐに補充部隊に組みこもう。次だ、次!」

 グレート所長の命令で、また別の人間が手術台に乗せられる。スルスルと台座がすべり、ドーム型の機械のようなもののなかへと入っていった。一部にガラスが使われていて、人間のシルエットがじょじょに別の何かへと変わっていくのが見えた。

「さあて。これでいいぞよ。三十分待てば、いいモンスターに仕上がるだろう」

 どうやらモンスターに変形するまでに、あるていど時間がかかるらしい。

 どうしたらいいんだろうか?
 このまま、こんな非道なことを野放しにはしておけない。
 ヤツらは人間と、

を戦わせて、自軍に痛手なく、人間だけを疲弊(ひへい)させている。
 人間の最後の一人がいなくなるまで、そうやって人間同士で殺しあわせるつもりなのか?

 僕はむしょうに腹が立って、どうしてもグレート所長をやっつけたくなった。

 今ここで、ふみこむべきか?
 それとも、ここは無視して逃げだし、応援を呼んでくるべきか?
 ま、迷うなぁ。
 蘭さんの危険察知があれば、グレート所長がどのていど強いのか事前に予測できるんだけど。

 グレート所長。名前はあんなだけども、なんとなく変な力は感じる。豪のゴドバほど圧倒的な力量差はないみたいだけどね。

 たしかに、えげつなく、いやらしいヤツではある。
 でも、かーくん。落ちつけ。落ちつけ。僕らが全滅しちゃったら、この一大事を外の人に知らせることができなくなるよ?
 ここは大人になろう。グッとこらえて、とにかく一番近くのギルドにかけこもう。倒すのは、それからでも遅くない。

 僕はそう決断した。
 情報伝達を優先したわけだ。

 だが、そのとき——

「おいこら、このブタやろう」

 えッ? 誰? アンドーくん?
 そんな定番の罵り言葉でブタさんを挑発するのは?
 人の身体的欠点を指摘するのはよくないぞ? あっ、人じゃないか。ブタはブタだな。たぶん、オーク。

 グレート所長の耳がピクピクとケイレンし、顔がひきつった。

「だ……誰だ? わがはいをブタ呼ばわりする愚か者は?」

 まわりの竜兵士たちがあわてて首をふる。すごくあせってるように見えるんだけど?

「ぐ、グレート研究所長。誰も所長をブタだなんて申しません!」
「そうです。所長はグレートな研究者です!」
「ブタだなんて、あんな下等な生き物とは似ても似つきませんです、はい!」
「うんうん。そうだよなぁ? わがはいはこの世でもっともグレートな大魔法研究家だぞい」

 すると、また——

「ハッ! おまえみたいなブタやろうが何をきどってるんだよ。このブタ、ブタ、くそブタ、ブタやろう!」

 ナッツだった……。
 ナッツは僕がひきとめるより早く、ドアをけやぶり、実験室のなかへかけこんでいった。ああ……。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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