第237話 ようやく合成屋
文字数 1,859文字
合成屋は外から見ただけでも異様なふんいきがただよっていた。
魔法使いのおばあさんが大きな釜で、なんとかのはらわたとか、なんとかの尻尾とか、なんとかのなんとかとかをグツグツ煮込んでるイメージ。
「な、なんか入るのに勇気いるね」
「かーくん。おぞいで?」
「なに言ってんの? アンドーくん。こ、怖くなんかないよ?」
「ふふふ。かーくん。声がふるえてますよ?」
みんなに笑われる僕。
もしかして仲間内でも、ぽよぽよだと思われてる?
ん? だから、ぽよちゃんは僕を仲間だと……?
「…………」
ま、いっか。
じゃあ、合成屋、入ります!
キイッと扉をあける。
薄暗い店内。
部屋の中央に大きな台座があって、そのまわりに合成素材とおぼしき品物がアレコレとならんでいた。
店の奥には、おばあさ……おばあ……違う! ピッチピチの若い子だ!
絶滅危惧種に認定されたガングロギャル系。
ネイルをかまいながら、チロッとこっちを見てきた。
「なにぃ? 客なの〜?」
「はい。客です」
ああ……おばあさんのほうがよかったな。ベテランって感じがして、たのもしかった。
「じゃ、出して?」
「えっ? 何を?」
「合成したいんでしょ? 出しなよ」
「いや、初めてなんで、ちょっと勝手がわからないんですが」
「ええーっ! ヤダ。なんで、そんなめんどいの来んのよ。ちょっと、おばあちゃん。やっぱ、店番ムリ〜。かわって」
奥からおばあちゃんが現れた。
よ、よかった。
頼れる感バッチリのベテランさん。
「ああ、どうも。どうも。孫娘のホイップが失礼しましたな。合成、初めてでございますかの?」
「はい」
「ほんじゃあ、会員登録が必要になってきますでございますよ。よろしいですかな?」
「はい」
「会員になるには年会費が必要になりますでございますよ?」
「いくらですか?」
「五万円」
……ぼるな。
ここも、ぼったくりか。
しょうがない。
「わかりました。年会費五万円ね。はい、どうぞ」
「まいどあり。年会費のほかに合成費も必要になりますよ?」
「いいですよ」
「では、説明してさしあげましょうですかな。合成とは、武器、防具、装飾品、アイテムなどを魔法で合体させて別の品物を生みだす錬金術でございますです。ただし、なんでもかんでも合成できるわけではございませなんだ。世の中には合成素材というものが存在しておりましてな。たとえば、鋼鉄の剣に蛇の牙を合成させれば、スネークソードという新たな剣になりますでございます。たまに毒攻撃になる剣でごさいますな」
どうでもいいけど、くどいしゃべりかたのおばあさんだな。
「武器や防具は、武器同士、防具同士でかけあわせることは、まずできませんでございます。武器と合成素材、防具と合成素材がほとんどでございますな。装飾品は装飾品同士であわせることが、だいたいできますでございますよ。装飾品はそれじたいが合成素材のことがございますので、そういうものは武器防具とも足せますでごさいますな」
「じゃあ、たとえば精霊のアミュレットを僕のオリハルコンのよろいに合成することはできるの?」
おばあさんは小柄で、いつも寝てるみたいに目をとじてるんだけど、その瞬間、カッと目をひらいた。
び、ビックリした……。
「それはできませんでございますよ!」
「そ、そうなんですか?」
「精霊のアミュレットは加工品でございますですからな。加工品を足すことはできませんでございます」
「ふうん。そうなんだ」
「精霊のアミュレットをベースにして、ほかの素材を足すことはできますでございます」
「ふうん」
おばあさんの目が、またカッとひらく。こ、怖い。このおばあさん。とうとつすぎる。
「たとえばでございますです! 貴殿のつけているその天使の羽飾りを、この精霊のアミュレットに足すことはできますでございますよ!」
おばあさんは蘭さんのドレスの胸に光る天使の羽飾りを指さす。
「えっ? ほんと?」
天使の羽飾りは毒、眠り、マヒ、魅了、石化、目くらまし、おびえ、笑い(えっ? 笑いって状態異常あるんだ?)の状態異常をすべてガードしてくれる優秀な装飾品だ。
ただ、即死系魔法は阻止できない。
これで即死魔法もふせげて、その上ステータスがあがって、さらには自動回復魔法がかかるって、ありがたすぎる。守りに関しては完璧な装飾品だ。
僕はさっき買ったばっかりの精霊のアミュレットを、ミャーコポシェットからとりだした。
「じゃあ、これと合成してください」
「はいはい。二万円でございますよ」
た、高い……。
ほんとにそれ、正規な値段なのかな?