第219話 キング対キングの戦い

文字数 1,378文字



「じゃあ、クマりん。子グマちゃんは仲間を呼ぶから、テディーキングになる前に倒してね」

 ——と、前もって頼んでおいたんだけど。
 クマりんは無表情だ。
 笑顔なんだけどね。ぬいぐるみだから。笑顔の無表情。
 前に一回だけ、しゃべったんだけどなぁ。寡黙(かもく)な子だなぁ。

「じゃ、ぽよちゃん。聞き耳お願い」
「キュイ〜」

 ぽよちゃんはよくしゃべる子だ。

 子グマちゃんは以前にも戦ったから行動パターンは把握している。レベル12ってなってるので、数値がちょっと高いだけだ。

 ケロよんは……ぬいぐるみなのに石化攻撃してくる! このダンジョンは基本的に石化攻撃がメインなんだな。フェイントっていうのは、なんなのかな?

 女の子は、おままごと、か。
 泣くっていうのもある。

 では、戦闘。

「バランとぽよちゃんはケロよんをたおして。次は子グマちゃん。女の子の順番で」

 いつものように戦闘開始しようとしたときだ。急にケロよんの舌がベロ〜ンと伸びた!
 ええーッ! なんで急に?

 ケロよんの舌攻撃は石化技だ。
 ああー! ぽよちゃんがなめられた。ペロンと。顔をペロンと。

「キュウ……」

 ぽよちゃんが石に! 石になってしまうー!
 ……ん?
 ならないな。
 顔をペロンとされて、ぽよちゃんは気持ち悪そうにしてるけど、石にはなってない。

「なんだったんだ? 今の」

 クルウの助言が発動した!

「今のがフェイントです。戦闘開始直後に、必ず先制攻撃で固定されている技なんでしょう」
「でも、ぽよちゃん、石になりませんでしたよね?」
「フェイントだから、石化の確率は50%のようです。これに似た攻撃を仕掛けてくるモンスターは他にもいますよ」
「なるほど」

 ケロよん。目立ちたがりのカエルだなぁ。今後もケロよんが出てくるたびに、毎回、必ず一度はフェイントを受けるわけか。石化か、石化じゃないのか、ドキドキルーレットだ。

 では、あらためて実戦!
 ケロよんはバランの二回攻撃で、あっけなく倒れた。フェイントだけが彼の出番であった。だから目立とうとするのかな?

 けど、ぽよちゃんの番だ。
 ぽよちゃんが子グマちゃんを攻撃しようとすると、クマりんがジャマをした。どうやら、自分がやりたいらしい。

 困ったなぁ。
 ぽよちゃんの攻撃が一回外れて、倒しきれなかった子グマが仲間を呼んだ。みるみるうちにテディーキングになってしまう。

「ああ……キングになっちゃったよ」

 それに対抗するように、今度はうちのクマりんも仲間を呼びだす。こっちも合体してテディーキングになった。

 キング対キング……。

 二体はターンなんか無視して、あばれるで殴りあう。僕らのことなんて見えてない。これはバトルというより、ナワバリ争いなのかも?

「しょうがないね。女の子だけでも倒しとこうか」

 と、見まわしたが、女の子の姿は見えなくなっていた。

「あれ? 逃げたかな?」

 近くもなく遠くもないどこかから、泣き声が聞こえてくる。
 うーん。これは、女の子の得意技“泣く”か?

 そういえば、ずっと聞こえていた泣き声。女の声っていうより、子どもの声だよね?
 なんか気になる。

「シャケ。アンドーくん。ちょっと交代してくれる」
「ええけど、なんでや?」
「ちょっと僕、ぽよちゃんといっしょに、そのへん歩いてくる」
「ふうん。気ィつけや?」
「うん」

 僕は戦線離脱して、泣き声のもとへ歩いていった……。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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