第157話 四階には何があるのかな?
文字数 1,878文字
階段をのぼりきると空気が変わった。
ヒリヒリと緊迫感が肌に伝わる。
四階にはこの廃墟のボスである、グレート所長がいる。
僕らは慎重に進んでいった。
手前から順番に扉をあけて、なかをうかがう。たいていの部屋は無人で、室内はガランとしている。今は放置してある空室だ。
何室めかで、本……というより、つづった書類を集めた部屋があった。資料室というか、そんな感じ。
大きなデスクも置かれている。
グレート所長の仕事部屋のようだ。
所長の姿は見えない。
研究について情報を得られそうだ。
僕らは所長室に入った。
書類をいろいろあさるけど、専門的すぎてよくわからない。難しい数式がいっぱい書かれてるけどさ。こっちは文系だから。グレート所長、名前に似合わず、わりにインテリだ。
ただ、デスクの上に日記があった。
『我が研究』と表紙に書かれている。
いいぞ。わかりやすい。
パラリとページをめくった。
『この城を発見したとき、わがはいは驚嘆した。人界にこれほどの魔法都市があったとは。長らく放置され、城は荒れ果てていたものの、かつてここで使われていた古代魔法についての書物が数多く残されていた。
そのなかにきわめて興味深い魔法があったぞよ。魂を肉体から分離する魔法だ。これを使えば、人間を今よりずっと効率よく大量に
だが、呪文の記述が完全には残っていなかったため、分離がうまくいかなかった。一時的に分離しても、すぐにもとに戻ってしまうのだ。わがはいは嘆き悲しんだぞよ。
研究に研究を重ねたが、どうにもうまく分離できんのだった。わが研究は続いた。
そして、あるとき、わがはいは天才的な閃きによって思いついたのだ。あの魔法とこの魔法をコンフュージョンして、アレしてコレすると、ソレになるのではなかろうかとな。ぶっひっひっ。
古代魔法で一時的に魂が分離しているときに、アレしてコレすると、肉体がソレしてドレになるのだ。おおー、グレート!
我が名はグレート研究所長。
わがはいの研究は続く……』
うーん。やけにアレしてコレしてが多いな。肝心なとこがわからない。
もともとはこの城に残っていた古代の魔法を利用した人間の大量虐殺が目的だった。けど、結果的に別の目的に使用されてるというわけか。
いったい、この城で何が起こってるんだ?
*
僕らはグレート所長の仕事部屋を出た。どうでもいいけど、日記を読んだだけで、くどい性格だとわかる。
この城は、幽霊は押しが強く、モンスターのボスはくどい。
もうエンカウントのモンスターは出てこない。ボスが近い証拠だ。
しばらく歩くと、いかにも怪しい扉があった。ちょっと大きめの両扉で、両脇に女神の像が立っていた。お祈りを捧げることができたので、セーブポイントなんだろう。
やだなぁ。この扉のなかにボスがいるのか。
じゃあ、行くよと、僕は仲間たちに視線を送る。うん、と力強くみんながうなずく。アンドーくんもナッツもこわばった表情だ。緊張してる。クピピコは自分が戦うわけじゃないのに、同じく冷や汗をかいてる。たまりんの表情は……わからない。
でも、いかざるを得ないので、そろそろと扉を片方ひらいてみた。
なかは広間かなと予想してたんだけど、どうも違うぞ。
薄暗いけど、そうか。ここがグレート所長の研究室なのか。
手術台みたいものがならんでいた。
片側の壁ぎわには鉄の
奥のほうに別のモンスターたちの気配があった。何してるんだろう?
手術台の上をのぞきこんでいるようだ。
白衣を着た竜兵士が四、五体。
その奥にやけにデッカいヤツがいる。デカすぎるブタだ。それもミニブタみたいな可愛いヤツじゃない。中国の秘境の家畜みたいな、鼻にめいっぱいシワの集中した、ブタ感ハンパない顔をしてる。猪八戒のモデルになったやつね。
「ブッヒッヒ。いいぞ。いいぞ。どんどん、つれてこい。みんな、魔法のえじきにしてやるのだー!」
「はい! 所長」
うん。そうじゃないかと思ったけど、コイツがグレート所長ね。
僕はヤツらが囲んでいる手術台の上をながめた。
そこには若い男が一人、よこたわっていた。
でも、こっ、これは——?
僕の見ている前で、男の姿がじょじょに変容する。ついさっきまで人間だったのに、今はもう、固い皮膚と長い鼻づら、するどい爪や牙を持つ、竜兵士だ。
に、人間がモンスターになった!