第64話 ヤドリギのカケラ

文字数 984文字



 風のような速さでBは疾駆(しっく)すると、すれちがいざまに短剣をつきだしてくる。

 ああ、ダメだー!
 よけられない。
 と思ったけど、ん? いつもより体が軽いぞ? なんとかギリギリのところでかわせた。

「変だな? 体が軽い?」
「キュイ。キュイ」
「そうか! さっき、ぽよちゃんが魔法をかけてくれたの、僕なんだね? ありがとう」
「キュイ〜」

 なかなかの賢さだ。
 知力30ってモンスターにしては、けっこういいほう。
 すっかり僕らの戦力になってる。
 かよわいモンスターだから数値は全体に低めだけど、そのうち種で強くしてあげよう。

 人さらいBの攻撃は終わった。
 安藤くんはどうするのか?

「安藤くん。しっかりしてよ! 安藤くんはそんなことする人じゃないよね?」

 人さらいAの安藤くんは怪訝(けげん)な顔をしながらも、またまた詠唱した。なるほど。ちゃんと目つぶってる。
「みんな、巻きで行こう〜」

 さあ、僕らの番だ。
 蘭さんはまず、鞭でBを叩いた。
 背中を向けて、自分たちの定位置に戻る途中だったBのお尻に命中。
 なんとなく、女王さまに調教されてるっぽい。

 そのまま、とどめの一撃かと思ったら、蘭さんは器用に瞳をうるませた。

「アンドーさん。僕らといっしょに戦いましょうよ。ね? 僕たち、友達だよね?」

 うわーッ! 魅了(100%)使ったね?
 安藤くんがストーカーになっちゃうよ? いいの?

 ところがだ。
 安藤くんは無表情に蘭さんを見ている。魅了が効いてない?

 猛がうなった。
「悪のヤドリギだ。こいつ、ヤドリギにあやつられてる」
「えっ? そうなの?」
「ヤドリギのカケラを体から出さないと正気に戻せない」

 うーん。どっかで聞いたような展開だが、どうしたらいいんだろうか?

「ヤドリギのカケラって?」
「ヤドリギは魂の一部を分割して、人の心のなかに宿らせることができるんだ」
「どうやって、それを出すの?」
「失神させるしかないな」

 つまり、戦って勝てと。
 うん。しっかりゲーム感を出してるね。

 蘭さんの行動が終わった。
 ブーメランは空振り……じゃなかった! 今度は人さらいBに当たったぞ。
 グラリと横に傾いて、人さらいBはそのまま起きあがらなかった。

 よし。あとは安藤くんだけだ。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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