第315話 平穏な村クラウディ
文字数 1,578文字
日が暮れかける前に、小さな村についた。周囲を森にかこまれ、麦畑の青々と茂る、どこにでもある平穏な風景。
クラウディという名前なんだそうだ。
「今夜はここで一泊しよう。ミルキー城まではまだ数日かかる」と、ワレスさんが言った。
僕らはクラウディ村に泊まることになった。村のまんなかあたりにある野原に馬車をならべて野営を組むのだ。
が、なんだか、やけにアンドーくんがソワソワしてるなと思えば、
「かーくん。わは今夜、実家に帰ってもいい?」と言いだした。
「えっ? 実家?」
「うん。クラウディ出身だけんね」
「そうなんだ」
田舎育ちとは言ってたけど、なるほど。森と畑しかまわりにない。
それでも、山奥じゃないだけ、現実のアンドーくんの実家よりはひらけてる気がする。
「いいけど。一人はどうなんだろ?」
「ちゃんと遅れんやに明日の朝、集合すうよ?」
「そうじゃなくて危険はないのかなぁって」
アンドーくんは笑った。
「危ないことなんか、なんもないわね。ただの田舎だがね。ずっと親やつにも会っちょらんけん、顔見せんと」
「うん」
いちおう僕らはワレスさんに確認をとった。
「——っていうことなんですが、アンドーくん、今夜は実家に泊まってもいいですか?」
ワレスさんはシリウス星のような青く光る瞳で、しばらく周囲を見まわしていた。
「……まあ、いいだろう。
おれの目で見ても
、とくに問題のない平凡な農村だ。ただし、一人にはなるな。深夜にとつぜん、ミルキー城からモンスターが攻めてくる、なんてこともあるかもしれないからな」用心深いなぁ。
でも、そう言われると、そうかもしれない。
シルキー城だって、まさか夜中にあんなことになるとは思ってなかったし。
「じゃあ、僕がついてこうかな? ぽよちゃんたちと」
「うん。いいよ。晩飯、ごちそうすうわ」
「ありがとう〜」
猫車のメンバーで移動することにした。デカすぎる猫がひく、ちっちゃい猫車は農村の子どもたちの心をわしづかみにしたようだ。
村道を歩いていると、わあっと金切り声をあげて、あっちこっちから殺到してくる。
人気者だなぁ。僕ら。
にぎやかに凱旋きどりで、アンドーくんの実家まで行った。
「ただいまー。帰ったよ。誰もおらんかいね?」
「ありゃ、ミツルだないか。あんた、どげしたかね? お城勤めは?」
「ああ、うん。ちょっと休暇もらったわね。今晩、泊まぁよ」
「いいけど、あんた、とつぜんだったがね。手紙くらいごしてもよかったに。そっちのかたはお友達かいね? まあまあ、なんにもないとこだけど、あがってごさっしゃい」
スゴイなぁ。ずっとアンドーくんといっしょにいたから、出雲弁がスラスラわかるよ。
たぶん、これがアンドーくんのお母さん。若いころは美人だったんだろうなぁ。今はちょっぴり、ふくよかになってるけど、美人は美人だ。アンドーくんによく似てる。
僕らは親切にも歓待を受けて、茶菓子でもてなされた。
アンドーくんのお母さんや、妹さん、おじいちゃんやおばあちゃん。みんな、アンドーくんのお城でのようすを聞きたがった。
話の流れで、お母さんはこんなことを言いだした。
「ところで、あんた、イケノさんちのセイヤくんには会った? あのさんも休みとって、こっちに帰っちょらいよ」
「えッ? セイヤが? それ、いつのこと?」
「さあ。十日くらい前だないか?」
「ほんのことかいね? ちょっと、セイヤのとこ行ってみぃわ」
「はいはい。晩ごはんまでには帰ってくうだよ?」
僕はアンドーくんとお母さんの会話を聞きながら落ちつかない。
僕らと戦ったあと、どこかへ逃げ去ってしまった、イケノくん。
イケノくんはヤドリギにあやつられていたはずだ。
でも、お城じゃなく実家に帰ってきてるってことは、もしかしたら、逃走の途中でヤドリギのカケラがぬけだしたのかな?
そうだったらいいんだけど……。