第12話 兵術訓練所

文字数 1,388文字



「えっと、とりあえず、お城、くまなくまわってから考える」
「そうかぁ? しゃあないな。ほな、またあとで、よろしゅうな」

 お城のどっかに宝箱とかあるかもしれないしな。こういうのは貰うもん貰ってからじゃないと損をする。

 というわけで、まずは目の前の訓練所に入った。
 兵隊さんが数人、案山子を相手に訓練中。
 近いところにいた僕と同い年くらいの青年兵士が声をかけてくる。

「あっ、ども。見かけない人ですね」
「旅人です。らんらん姫と同行してきました」
「そうなんですね。じゃあ、訓練していきますか?」
「えっと……」

 したほうがいいのかな?
 キャタッピ一匹、倒せない僕……。

「今、レベルは?」と聞かれて、ステータスを確認する。
「あっ、レベル7になってる。みんなといっしょだったから、レベルだけは上がるなぁ。HP76、MP54——あれ、MPすごい伸びてるな。力8、体力6、知力15——知力もスゴイな。素早さ7、器用さ11」

 そして、僕は気づいた。

「あっ! 魔法が使える! 『元気になれ〜』って、蘭さんがやってくれたやつだ。回復魔法か。まっ、一人で遠征とかになったとき、必須だよね」
「じゃあ、練習してみませんか?」
「あっ、でも、休んでMP回復してからじゃないと」
「訓練所のなかはMPなくても魔法使えるんですよ」

 兵隊さんに勧められて、僕は試しに魔法を使ってみることにした。
 それにしても、呪文が致命的にダサいけど、そこはいかんともしがたい。

「じゃあ、行きます。元気になれ〜」

 ん? 何も起こらないぞ?

 すると、兵隊さんが、厳しい教官の顔になる。

「そんなんじゃダメだ。ちゃんと呪文どおりにやらないと」
「えっ? 呪文どおりに言いましたけど?」
「違う! ちゃんと見て」

 トントンと、兵隊さんはモニターを叩く。
 僕はその指のさきを見た。
 ん? あれ? なんか変だぞ。
 呪文のよこに、なんかある。


 元気になれ〜ヽ(*´∀`)


 なんだ、コレ?



 *

 兵隊さんは教官の顔のまま、トントンとモニターの呪文を叩いた。

「コレです」
「コレ?」

 もしかして、顔文字か?

「えっと、この……え、笑顔?」
「そうです。呪文はこの顔のような文字の表情で言わないと、効果が表れないんだ!」

 顔文字の顔で呪文詠唱。
 顔文字の顔で呪文詠唱。

 もう一回言うよ?
 顔文字の顔で呪文……。

「ええーッ!」
「ええっ、じゃないよ? ほら、やってみよう」
「マジで? この顔じゃないとダメ? そのための記号?」
「そうです。元気になれだけじゃないですよ? ほかの魔法にも、みんな、こういう顔っぽい記号がついてます。呪文によって記号は違うけど、なるべく、それに近いほうが効果がいいんでね」
「ええーッ!」

 なに、その辱しめ?

「そ、そうか。だから、蘭さんは呪文唱えるとき、いつも、あんな素敵な笑顔だったんだ」
「そです。やってみましょう」
「は、恥ずい……」
「ダメダメ。その恥ずかしいと思う気持ちを捨てないと、いい魔法使いにはなれません。さ、練習。練習」

 そのあと三十分。
 僕は訓練所で特訓した。
 それは魔法の練習じゃない。
 笑顔の練習だった。

 なんなんだ。この世界。
 ブツブツ……。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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