第244話 お城のわが家
文字数 1,254文字
ギルドを出て、ボイクド城へ帰ったころには、あたりはすっかり暗くなっていた。
預かり所にも予備のアイテムを預けてきたし、ギルドに寄付もした。三百万寄付したけど、それでもまだ手元に百万以上残った。
湯水のように湧いて出てくるお金。
現実に持って帰れたら……いや、いいんだ。人並みの幸せはつかんでる。少なくとも真夏にクーラーのなかでアイス食いながら、ダラダラ休日をすごすことくらいはできる。
ギルドを出てから、蘭さんのようすが沈んでる。街灯に浮かぶ白皙には憂いの影が。
しょうがないよね。
お兄さんが魔物にあやつられてるんだから。自分の国を追われて、お父さんとお母さんの行方も知れないし。
お城の門をくぐって前庭に入る。
前庭には、かがり火がたかれてる。
僕らの部屋はどこかなぁ?
この前、けっきょく部屋を教えてもらう前に出発しちゃったから。
でも、たぶん、本丸の東側付近なんだと思う。クルウが部屋に案内すると言いながら、そっちにむかって歩いてたから。
そのあたりに行くと、出入り口の前に僕の英雄が立っていた。もちろん、ワレスさんね。
「やっと帰ってきたか。クルウから事情を聞いた。疲れてはいるだろうが、今後のことについて重要な話がある。勇者に来てもらおうか」
ああ、心配だなぁ。
蘭さん、一人にしてもいいのかな?
今、気落ちしてるから。
スズランもそう思ったのか、
「わたしも行きます。わたしは祈りの巫女。勇者の妹です」と言いだした。
「いいだろう。二人は来てくれ」
美しい三人がそろって去っていく。
見ため美男美女カップルと、その妹だよ。またはワレスさんが両手に花をかかえてる?
「じゃあ、僕らは部屋に帰る? 部屋どこだろ。お腹へったよねぇ。食堂の位置はわかるよ」
ボイクド城の設計したの僕だからね。
「まあ、待ちなさい」と、呼びとめたのは、もちろん、アンドーくんじゃない。
クルウだ。
いたんだ。
「あなたがたのことは兵士たちには秘密にしておきたいのです。こちらへ来てください」
つれられていったのは裏庭だ。
前に花壇を貸してもらった場所ね。
裏庭は広いので、一部はちょっとした森みたいになってる。
そのなかにロッジ風の小さな一軒家があった。
「ここなら周囲の目を気にする必要はないでしょう? 外からもちょくせつ帰れるし、裏には庭や井戸もある。馬車を置くこともできる」
おおっ、たしかにいい。
自由に出入りできるのもいいし、田舎の別荘風なのもいい。居心地よさそうな家だ。
アンドーくんも、ぽよちゃんも嬉しそう。
「ああっ、ここに畑作ってもいいだぁか?」
「ピュイ〜ピュイピュイ」
「……ま〜」
ん? クマりん、またしゃべった?
「食事はどうしたらいいんでしょう?」
「庭師たちの食堂に行ってもいいし、ここで自炊してもいい。街で外食をしてもかまいませんよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「ご入り用のものがあればおっしゃってください」
「は〜い」
僕を見て、くすくす笑いながら、クルウは立ち去った。
どうせ、ぽよぽよですよぉー。