第101話 コビットたちの村
文字数 1,617文字
途中までは道なりに進んだ。
そのあと、森のなかに入った。
馬車では進めなくなりそうだったので、アンドーくんに留守番を頼んで、ぽよちゃんたちモンスターたちとともに馬車に残ってもらった。
先頭に蘭さん。
蘭さんの肩の上にはコビットが乗っている。スズラン、僕、三村くんと続いていく。
「あれ? こげくさくない?」
「ほんまや。森のなかやろ? 煮炊きの匂いとはちゃうなぁ」
「あっ、あれ、煙じゃないですか? 山火事……ですか?」
木々の合間から黒っぽい煙が空にむかって立ちのぼっていくのが見えた。
どこをどう歩いたのかイマイチわからないけど、クピクピというコビットたちに道案内されて、やがて、そこへやってきた。
これが、コビットたちの村か。
でも、この惨状はいったい、どうしたんだ?
犬小屋くらいのサイズの可愛い家が崩されたり、燃やされたりしている。
それも、まだ火が消えていない。ついさっき、やられたって感じだ。
「ヒドイ……誰がこんなことを」
「とにかく、火を消しましょう!」
「そうだね」
なぜか、三村くんが商売物のバケツを持っていた。僕らは村の中心にある池から水をくんで、バケツリレーで次々と火を消していった。
あのまま燃えていたら村は壊滅状態だったかもしれない。けど、僕らの体は、コビットの家に対して巨人サイズだ。バケツ一杯の水で、家一軒、あっというまに火が消しとめられた。
火事はおさまった。
あとは負傷者の有無を確認だ。
「家のなかにはいないみたいですね」
「どっかに隠れとるんちゃうん?」
すると、さっきの三人のコビットたちが蘭さんの肩をとびおりて、コビット語で何か叫んだ。
それを聞いて、村のあちこちから、わやわやとコビットたちが現れてくる。
「クピピ。クピー!」
「ココピコ……ピコピ」
「ピコピ?」
「ピコピ、コピクピ」
スズランが通訳する。
「村長の娘がさらわれたようですね」
いったい、この村で何が起こったんだろう?
さっきの三人と抱きあう村人たち。
可愛いなぁ。
ドールハウスのなかに入りこんでしまったみたいだ。
口々にクピクピ話す村人たちの言葉をスズランが通訳してくれたところによると、だいたい、こんなことが起こったらしい。
つい一時間ほど前、とつぜん変なキャラバンが村を襲ってきた。そいつらは人間に化けてたけど、あきらかに魔物だった。
魔王様といっしょに戦わない悪いモンスターは成敗すると言って、村をめちゃくちゃにしていった。
村人は小さいので、みんな、急いでまわりの森のなかに隠れたが、逃げ遅れた村長の娘のピコピがつれさられていった。人間たちの見世物にしてやると言っていた。
村の戦士たち(最初に僕らとバトルした三人)が追いかけていったが、見失ってしまった。
——という事情のようだ。
「変なキャラバンのウワサ、神殿でも何人か話してたよね。やっぱりモンスターだったんだ」
「そうですね。魔王軍があちこちの街や村を襲っていることと関係があるのでしょうか?」
「勇者狩り、言うとったよな?」
「…………」
蘭さんは美しいおもてをしかめて朱唇をかんだ。自分の力がおよばないことが悔しいんだろう。
「コビットたちは平和を愛する妖精。人間たちと戦う気はない。それを快く思わない魔物もいる。だからって、こんな小さなものたちに、この仕打ちはヒドイ。僕たちで何かできることはないでしょうか?」
「そのキャラバンの強さにもよるだろうけど、僕らで倒せるようなら、さらわれた子をつれもどしてあげたいよね」
「追いかけていきましょう。今なら、まだまにあうかもしれない」
「そうだね」
ほんとは早くボイクド国へ行きたいけど。だって、ほっとけないよね。
僕らはこうして、みずから『怪しいキャラバン事件』に首をつっこんでいくのだった。