第104話 サンディアナ酒場

文字数 1,872文字


「いらっしゃ〜い。あら、初めて見る顔ね。旅人さん?」

 ば、バカな! バニーガールだ!
 マジでこんなカッコしてる人が世の中にはいるのか。
 あ……編みタイツー!
 ああ、もう街ってサイコーだね。

「あ、はい。冒険者です。ビールください」
「わもビール」
「はい。こちらのお席どうぞ。生二つ〜」

 ジャズピアノの響く店内。
 丸テーブルの一つに案内され、バニーちゃんが生ビールを持ってきてくれた。うちのバニーちゃんは、すっかり寝てしまった。いいんだ。いいんだよ。人型のバニーちゃんが話し相手してくれるから。

「あ、あの、にぎやかな街ですね。おススメのスポットってありますか?」

 とりあえず無難なとこから攻めていく。いきなり、「怪しいキャラバン見ませんでしたか?」なんて言ったら変に思われる。酒場にやつらの仲間がまぎれてるかもしれないし。

「そうね。あなたたち冒険者なんでしょ? 冒険者ギルドには行ってみた? あそこなら二十四時間営業してるし、冒険者に必要なものがなんでもそろってるのよ」
「へえ。冒険者ギルド。そんなものがあるんですか」

 ゲームではよく出てくるギルド。でも、それは、このゲームによく似た世界にはなかったはずのものだ。そう。ドラゴンをクエストする、あのゲームには。

「王都の騎士長のワレス様が、もともと傭兵だったんです。ご存じですか?」
「はい! 知ってます。彼のことならなんでも知ってます!」

 ハッ! しまった。バニーちゃんにクスクス笑われてしまった。

「お客さんもワレス様のファンなんですね?」
「あ、うん。まあ」

 いや、生みの親だけどと言ったところで、誰も信じてはくれまい。

「だから、傭兵や冒険者がお仕事しやすいように、全国にギルドを作ったんですよ。まだ他国にはないんですってね。冒険者ギルド」

 なるほど。ワレスさんの発案か。
 さすが、目のつけどころが違うなぁ。
 僕の英雄。

「そっかぁ。アンドーくん。あとで冒険者ギルド行ってみようよ」
「そげだねー」

 夜はふけていく。

 酒場ってのは、いろいろとウワサが集まってくるものだ。
 こういうゲーム世界では、なぜかみんな、見ず知らずの旅人が自分たちのテーブルにやってきて、「ちょっと話、聞かせてください」って言っても許してくれる。
 現実世界でこんなことしたら、そうとう変人だと思われるよね。へたすると不審者。でも、ここでは変人上等なんで、積極的に話を聞き集める。

「知ってるか?」

 また“知ってるか”だ。
 きっと、みんな自分の情報を自慢したいんだろうな。

「わが国の東の端にはエレキテルの街っていうところがあってな。魔法のように不思議なものがたくさんあるんだそうだ」

 へえ。エレキテル……電気がかよってるのか? スマホの充電したいなぁ。なぜか、現実の世界より充電の持ちがいいんだけど、それでも、じょじょに減ってきてはいる。いつか、小説が書けなくなると困るぞ。
 これはいい情報だった。
 キャラバンには関係ないけど。

「シルキー城が襲われたらしいね。おれの知りあいの息子がシルキー城の兵士で、命からがら逃げてきたんだけど、まだケガしてるんだって」
「えっ? シルキー城の兵士? 名前はなんていうんですか?」
「たしか、トーマス……だったかな?」

 兵士訓練所にいた鬼教官トーマスだ。僕に呪文の唱えかたを教えてくれた。

「その人、今、どこにいるんですか?」
「実家で寝たきりらしいよ」
「その家、どう行ったらいいんですか?」
「うん。ギルドの裏通りとまじわる三本めのかどっこだ」
「ありがとうございます!」

 トーマスにはお世話になったし、シルキー城のようすも聞きたい。
 シルキー城はどうなったんだろうか? 蘭さんのお父さん、お母さんは無事なんだろうか?

「このごろ、北のウールリカから羊毛がちっとも入ってこないんだ。何かあったんじゃないかなぁ?」

「王都のシルバースターには、不思議な扉があるんだってな。その奥へ行けるのは、時間を越えられる人だけらしいよ。どうやって時間なんて越えるんだろうな?」

「ミルキー城のらんらん姫が行方不明らしいんだ。ブラン王が見つけた人には十万円の報奨金を払うって話だぜ」

 ここでも、いろんな情報が得られた。
 いい情報、悪い情報あるなぁ。
 どうもブラン王は蘭さんを賞金首にしてしまったらしい。
 困ったもんだ。
 やっぱり、ヤドリギにあやつられてるのか……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み