第292話 トンネル徘徊
文字数 1,915文字
このトンネルは、どうやら一部が川底を通っているようだ。
ごうごうと水の流れる音が内部に響きわたっている。
こんなところに、よくトンネル作ったなぁ。橋かけるほうがラクじゃないか?
昔の人の技術、スゴイ。
「オンドリヤさんって、おばあさんなんだよね? 一人でこんなとこまで入ってきて、大丈夫かな?」
「出現モンスターは竜の岬の洞くつと同じですね。僕らには楽勝だけど、一般人なら命にかかわると思いますよ」
「だよね」
なつかしのテッポオやウツボン、ヒトヒト、海スライムなどだ。
帰ってきた、僕の海鮮丼!
出てくるたびに、チューチューさせてもらう。ホタッテとか、ピラメとかチビシャークとか。お刺身食べてる気分〜
なぜか、お城や住居のなかに置いてある、割るといろいろなものが入ってるツボに隠れてるモンスター、ツボカリンがよく出てくる。しかも、竜の岬に出てきたタコツボとセットで出る。とくに強いわけじゃないんだが、倒すと、変なツボ、スミツボというアイテムをドロップする。
「このツボ、なんだろうねぇ? とくに使い道もないし」
「ああ、それかい。もう一種類、ヤドカリンというモンスターの落とす、宿ツボというアイテムがあってじゃなぁ。変なツボ、スミツボ、宿ツボを合成すると、無職のツボになるんじゃ」
「へえ。無職のツボ? 職業のツボみたいなものかなぁ?」
「そうじゃ。無職のツボに名人の魂を吹きこむとじゃな。職業のツボになるんじゃ。つまり、白紙の秘伝書のツボバージョンじゃな」
「そ、そうなんだ! 職業のツボが作れるんなら、すごい強い人に頼めば、いきなり最上級職にもつけるんだ!」
「それはできん相談じゃのう。名人の魂は名人と呼ばれる人が死ぬときに結晶化するもんじゃでなぁ」
「ああ……そうなんだ。ツボのために死んでくれとは言えないなぁ」
「言えんわい。ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ」
薄暗いトンネル。
ガラガラと馬車で移動する僕たち。
宝箱発見! なんだ、銀のよろいかぁ。
先頭を歩く僕に、蘭さんの声が問いかける。
「……かーくん。さっきから誰と話してるんですか?」
「えっ……?」
そう言われれば、蘭さんでもアンドーくんでも、ましてやスズランでもなかったような? スズランは「ひゃっひゃっひゃっ」なんて笑わない。
ま、まさか……やっぱりオバケ?
サアッと全身の血が足元に落ちていく思い。
僕は恐る恐る周囲をさぐった。
キョロリ。キョロリ……。
「ギャー! 出たー! 白髪のオバケー!」
背の低いおばあさんが、いつのまにか僕のとなりに!
「誰がオバケじゃ! レデぇーに対して失礼な。わしゃ、織物名人のオンドリヤじゃわい!」
「ん? 織物名人?」
あっ、ほんとだ。
ちゃんと足があった。
少なくとも、たまりんよりは人間。
それにしても合成屋のおばあさんにそっくりだなぁ。
「あなたがオンドリヤさんですか? 僕たち、村の人やデシミルさんに頼まれて探しに来たんですが。モンスターに襲われてたんじゃないですか?」
「カアーッ! あんなザコ相手におくれをとるような年寄りじゃないわい! わしゃまだ若いんじゃー!」
「…………」
反論はしないでおこう。
たぶん七十から八十のあいだくらいだろうと思うけど。
「そうですか。お強いんですね。あの、シルバースターにいる合成屋のおばあさんとお知りあいですか?」
「おお。ゴンドリヤを知っとるのかい。ありゃ、わしの妹じゃわい」
「ですよね」
見ためも、「カアーッ!」と叫ぶところもよく似ている。
「僕たち、馬車の容量を増やしたくてですね。魔法のほろ布を織ってもらいたいんですよ」
「今はムリじゃな。布を織るのに必要なウールがなくなってしもうた」
「ウールを調達してきたらいいんですか?」
「ウールリカ産のウールじゃないといけないんじゃ。ウールリカの羊毛にはよその土地産にはない魔力かふくまれちょる」
「ふーん。そうなんですね」
「ウールリカとボイクドはその昔、一つの広大な国じゃったという言い伝えじゃ。そのころの王都はウールリカにあったそうじゃなぁ。じゃからの。ウールリカには今でも不思議な力がたくさん残っとるんじゃ」
さすがは生き字引!
でもそんなこと言ったら年寄りあつかいするなと怒られそうなので、言わない。
「オンドリヤさんは、だからウールリカに行こうとしてるんですか?」
「それもある。しかし、ウールリカには予言の巫女姫がおったはずじゃ。気になってのう」
そう言えば、そんなウワサ、以前にも聞いたな。
あまりにも予言が的中するもんだから、その力を恐れた両親に塔のてっぺんに幽閉されたんだっけ?
ウールリカは魔王軍の襲撃を受けたって話だ。もう生きていないんじゃないだろうか?