第4話 冒険者が稼ぎを得るには

文字数 1,538文字



「あれっ? 三円って、どこ? 僕の三円は?」

 手の内にもないし、ポッケにもなし。
 スライムのまわりに転がってるわけでもない。
 僕は手に入れたはずの三円を探しまわった。無一文だから三円とは言え惜しい。

 すると、ずっと腕を組んでようすを見てた蘭さんが言う。

「そんなとこ探してもありませんよ? 早く、モンスターが失神してるうちに、ふところ、あさらないと」
「えッ?」
「えッ、じゃないですよ? だって、モンスターが負けたからって、親切にお金渡してくれるわけないじゃないですか。とるんです。それが勝者の権利です」
「ええーッ!」

 ショック!
 そ、そうだったのか?
 僕がかつて受験勉強も忘れるほど楽しませてもらったあのゲームやこのゲームも、じつは主人公はそうやって収入を得てたのか?

 まあ、そうか……。
 そうだよね。
 都合よくお金が湧いてでるわけがない。
 勇者は強奪を重ねて、あそこまで強くなってたのか。

 しょうがない。
 ここは木刀の代金を払うために、可愛いスラちゃんから小銭を奪おう。

 僕は目をまわしてノビているスライムのふところを……ふところを……。

「蘭さん! ふところがない!」
「スライムですからね。ほら、見えてるじゃないですか。体のなかに」
「体のなか?」
「なかです」

 なるほど。よく見れば、ゼリーのあちこちに、キラキラしたものが見える。さらによく見れば、見なれた十円玉や五円玉だ。一円が一番、たくさんあるな。

「たぶん、落ちでる小銭を飲みこむ習性があるんでしょうね。服を着る習慣のないモンスターは、たいてい体内に隠し持ってるか、髪の毛のなかに忍ばせてるか、そんなところです」

 なんか、バッチい……。

「早く、とりださないと、スライムが目を覚ましてしまいますよ?」
「どうやって、とるの?」
「あなたには腕があるじゃないですか」
「腕?」

 ま、まさか、腕を、つっこめとォー?
 スライムの口に?

「お金、いらないんですか?」と、蘭さん。
「いや、いるよ」

 しょ、しょうがない。
 僕は覚悟を決めた。


 *

 スライムは笑み口をあけて気絶している。やるなら今だ。

 僕はスッと伸ばした腕を、おもむろにスライムの口のなかへ……。

 ぎゃー! なんかひっつく。つるんとヒルっぽい何か。
 カエル? アマガエルの感触に似てるなぁ。ヒンヤリして、つるつるで、ほんのり、しっとり濡れてる感じ。ほんで、微妙にやわらかいんだよね。

 決して嫌いな触感ではないけど、モンスターの口に手を入れてると思うと、別の意味で緊張する。
 今、スライムが目を覚ましたら、大変なことになるんじゃないか?
 かみつかれないかな?
 スライム、歯がないから、食いちぎられはしないだろうけど。

「かーくんさん! そこです。小銭、にぎりしめて」

 えっ? ちゃんと見てなかった。あっ、ほんとだ。手が届くぞ。

 僕は小銭をつかみとると、サッとひきだした。
 ヤッター! 初収入〜
 初任給を貰ったときの喜びを思いだす。
 三円じゃ、なんにも買えないけどさ。

 僕は勇んで手をひらいた。
 うん。なんか、ねっとりしてる感があるけど、一円玉が三つ。
 たしかに、いただいたぜ。へへへ。

 僕はスライムのヨダレまみれのお金をポッケに入れた。
 あと十六匹倒せば、木刀の代金が支払える。

「さ、行こう。蘭さん。あれ? なんで、そんなに離れてるの?」
「えっ? いえ、なんかその……早く手を洗ってください」

 ええ、ええ。どうせバッチいですよ!
 スライムまみれ〜

 僕らは、さらにダンジョンの奥深くへと歩いていくのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み