第221話 ポルッカ屋敷(階段)

文字数 1,938文字


 一階には食堂や、遊び部屋や、物置があった。どこもかしこも、オモチャの国に迷いこんだように可愛らしい。
 出てくるモンスターも可愛らしい。
 シマウマのぬいぐるみのシマりんや、おサルのぬいぐるみのサルサルや、ライオンのぬいぐるみのガォーんだ。
 たまに、あの本のモンスターのブッキーや、バジリスク、ミニドラゴンも出てくる。
 可愛いモンスターと、魔王軍のなかでは可愛いモンスターって感じだ。
 人間は今のところ、マルッカしかいない。

「マルッカのお母さんはポルッカさんなの?」
「うん! マルッカのママ。ポルッカ」

 ポルッカさんって女の人だったのか。
 かつて貿易商を営んでいた変人の金持ちっていうから、てっきり男だと思ってた。

 屋敷のなかの宝箱は小さなコイン一択。そのほかはない。
 ブッキーがいるから、魔法のカード集めにいいよね。とくに黄色い本はサンダー系の魔法を落とすし。

「あれ? なんか、ついてくるね」
「水色のクマやで」
「ほんとだ。さっきの子グマちゃんだ。変だなぁ。ロランがいないのに、モンスターがついてくるなんて」

 水色のクマは僕らが立ちどまると、あたりまえの顔して、馬車のなかに入った。クマりんとならんで座る。

「お友達になったのかな?」
「せやなぁ」

 まあ、ついてくるならそれもいい。
 馬車に乗りこめてるのは、蘭さんがいないからパーティーメンバーが八人に達してないってことかな?

 僕は水色の子グマちゃんのステータスを見ようとした。けど、なぜか見れない。変だなぁー。

「じゃあ、一階は全部、調べたから、二階に行こうか」
「階段やで。馬車、のぼれんのかいな?」
「ムリなら、ここで馬車は持ってもらうしかないかなぁ」

 問題なかった!
 らせん階段を馬車は器用にのぼる。
 やっぱり物理法則に反してるなぁ。

 屋敷は二階建てだ。
 地下室はないみたいだから、何かがあるとしたら、この二階しかないんだけど。

 二階に上がるとすぐ、何かがとびだしてきた。
 ここで、テロップ〜


 野生の男の子が現れた!
 野生のクマちゃんが現れた!


 男の子も野生かっ!


 *

 野生の男の子。
 もちろん、これも人形だ。
 ブラウンの髪でオーバーオールを着ている。むぎわら帽子かぶってね。
 さっきの消えた女の子と対になってるようだ。

 子グマちゃんのほうは、今度はレモンイエロー。リボンはオレンジ。柑橘系な香りのするテディベア。

 またもや、クマりんがとびだしてきた。
 ああ……またナワバリ争いが始まってしまうのか。

 聞き耳をしてもらうまでもない。
 二体しかいないし、すぐに倒してしまおう。

 ところがだ。
 戦闘直後に男の子が消えた。
 よく見ると、ろうかの奥にむかってスターッと逃げていく。

「あっ、逃げた!」

 しかも、そのすきに、クマりんが仲間を呼んだ。
 ん? 違うぞ。いきなり、テディーキングがやってきた。水色のテディーキングだ。

「あれ? これって、さっきの水色の子? なんでキングで出てくるわけ?」
「変やなぁ。クマりんと合体したわけでもないのになぁ」

 おかしい。
 僕はもう一度、よくよくテディベアたちのステータスを見なおした。
 水色の子はやっぱり見れない。
 でも、クマりんの得意技を見て気づいたことがある。

「あれっ? 仲間を呼ぶのランクが上がってるね。ランク1は子グマ呼び。ランク2はパパ呼び。ランク3はまだ使えないけど……パパって、もしかして?」

 僕がつぶやくのを聞いて、クルウがクスクス笑う。

「かーくんさん。よくご覧になってください。水色も黄色も

ではありませんよ」

 ん? どれどれ?
 あっ、ほんとだ!
 子グマちゃんじゃない。
 クマちゃんだ。
 そう言えば今さらだけど、水色の子はクマりんより身長も少しだけ高いし、全身はひとまわり大きい……ような気がする。

 そうか。パパなのかっ!
 水色の子はクマりんのパパ!
 じゃあ、何?
 さっきの壮絶なバトルは反抗期!

「ということは、黄色いクマちゃんは、もしかして……ママ?」

 パパの次はママか。
 クマりん、ママ活中!
 勝たないとママになってくれないとは、テディベアの世界って、思ったよりシビアだ。

「ママ! ママだよね!」
「えっ? どなたですか?」
「クマりんだよ。ママ、どこ行ってたの? 会いたかったよ!」
「えっ? どなた……」
「ママ! クマりんのこと忘れちゃったの?」
「えっと、あの……」
「ママのバカー!」
「イタっ。イタタ! く……クマりん、ね?」
「ママー!」
「えっと、その、うん。まあ……」

 そんな会話が聞こえてくるかのようだ。
 クマりんは勝った。
 今回は楽勝だ。
 なにしろ、テディーキング二体がかりで、あばれるからのボディープレスに、がおーだし。

 黄色いクマも無事、クマりんのママになった。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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