第362話 魔法の鏡
文字数 1,253文字
壁ぞいにクルウが爆薬を仕掛ける。
さて、火打ち石を出そうとしたときだ。
「あッ! かーくん。これ見てごしない。なんか鏡に映っちょうよ」
アンドーくんに言われて、僕らは鏡をのぞきこんだ。
あれ? どうしたんだ?
鏡のなかに女の人がいる。
もちろん、僕の姿じゃない。
いくら女顔だからって、自分の顔を女と見間違わないからね。
「えーと。誰?」
「誰だやら」
「キレイな人だねぇ」
どっかで見たことがあるような気がするんだけどなぁ。
かたわらで見ていたクルウがハッと息を飲む。
「これは、先代王ココノエ様のお妃様です。お亡くなりになった、先の王妃。ミラン様」
「そうなんだ。ということは、ブラン王のお母さん?」
「さようですね。それに、よく見れば、この鏡の縁飾り。わが国の紋章がある」
クルウの指さすところを見ると、なるほど。ボイクド国のお城でさんざん見てきた紋章が浮き彫りにされていた。
「てことは、この鏡、ボイクド国のものなんですか?」
クルウは考えこんだ。
「じつは、わが国の先々代の王の妹君がウールリカに輿入れなさっておりまして、そのとき嫁入り道具として、魔法の鏡をお持ちになったという話ですね。ウールリカは魔物の襲撃を受けておりますし、魔法の鏡も盗まれたのかもしれません」
そうだった。
この鏡って、いわくつきだったっけ。
えーと、ミラン様が生きてるころに、遠くの国の商人から献上されて、そのあと急にお妃様の健康が優れなくなったとかなんとか。そんな内容だった気がする。
ほかの国の王家から盗まれたものだったのか。しかも盗んだのは魔物の可能性もある。
「嫁入り道具にするくらいだから、もともとは縁起のいい鏡だったんですよね? 王家の宝、みたいな?」
「私が聞いた話では、その鏡は忌み地よりもたらされたという話ですね」
「忌み地?」
「あなたがたは特訓でウールリカとの国境近くまで行っていたそうですね」
「ああ、はい」
「そのとき、森の人に遭遇しませんでしたか?」
「しました」
おもにウールリカに住んでる、原始的な民族……だったかな?
蘭さんが目をあわせちゃいけないって言ってた。
「彼らの崇める神聖な地のことです。人が近づいてはいけない場所だから、忌み地と呼ばれています」
「なるほど」
あのとき、火の玉グリーンの記憶を見た。エルフのような人たちが魔物に襲われ、村ごと滅ぼされる悲しい記憶だ。
その昔、ボイクドとウールリカは一つの広大な国だったっていうけど、もしかして、それがあの火の玉グリーンの見せたエルフたちの国だったのかもしれない。
そして、森の人たちは、滅びをまぬがれた数少ない生き残りなのかも。
ウールリカへ行けば、何かがわかりそうな気がする。
きっと、エルフたちの国では魔法が栄え、不思議な力の宿る品物がたくさんあったんだろう。
この鏡はそのころの名残だ。
「かーくんさん」
ん? 誰?
女の人の声だ。
僕がキョロキョロしてると、またその声がした。
「こっちです。鏡のなかです」
「えっ?」
鏡のなかの女の人が僕に話しかけてきた!