第204話  ここは裏庭では?

文字数 1,397文字



 一階に戻ろうと地下牢のあいだを歩いていると、行きに通ったのとは違う階段を見つけた。もっと細い階段で、よっぽど気をつけてないと見すごしてしまいそうだ。

「あれ? この階段、どこにつながってるのかな?」
「行ってみぃか?」
「そうだね」

 トントントンとのぼっていくと、小さいアーチ型の扉があった。カギがかかってたけど、万能のカギ(鉄格子)であいた。鉄格子の扉じゃないのに、鉄格子のカギであいた!
 これはいくらなんでもご都合主義じゃないのか?
 説明をよく読むと、鉄格子やその他(牢屋など)の扉をひらく——って書いてある。牢屋の出口だから、アリなのか?
 まあ、本来は牢屋〇カギって名前にしたかったけど、あのゲームからまんま持ってくるのはマズイだろうと思って別の名前にしただけ、という大人の事情だ。大した問題じゃないんで、進行、進行。

 ギイッと鉄の扉をあけると、まぶしい光。庭だ。中庭は石畳が敷かれていたけど、ここは敷石されてるのは歩道だけだ。草木の植えられた美しいガーデンだ。

「あっ、裏庭だね」
「えっ? なんでわかぁで?」

 なんでと聞かれても困るけど、僕の書いた小説でそうなってるからだ。

「えっとぉー。位置から言って、そうかなと」
「へえ。よう方角わかったね」
「う、うん。まあね」

 石のお城のなかで見るガーデンは、むしょうにホッとする。
 深呼吸していると、人が歩いていた。目の前の小径をよこぎっていく。
 庭師のようだ。
 オレンジ色の髪のイケメンと、黒髪の少年だ。

 おおっ。やっぱりこのお城のなかは知りあいが目白押しだなぁ。
 あれはきっと、ミモザとリヒテルだ。もちろん、ワレスさんのシリーズのなかに出てくる。
 ふふふ。『ゆがんだ恋人』はシリーズのなかでも、ミステリー色が強いんだよ。早くアップしたいなぁ。
 そのためにはこのゲームを終わらせて現実世界に戻らないとな。

 そんなことを考えていると、キレイな庭を見てテンションの上がったぽよちゃんとクピピコが花壇のなかにかけこんでしまった。

「あっ、ダメだよ。ぽよちゃん。クピピコ。勝手に入っちゃ」
「キュイ?」
「花壇を荒らしたら怒られるよ?」

 近くまで来ていたミモザとリヒテルが、僕らに気づいて近よってくる。
 ヤバイ。叱られる……。
 と思ったら——

「そこの花壇は今、使ってないんだ。よければ貸してあげるよ」
「えっ? ほんとに?」
「ああ。いいよ」

 花壇を貸してもらっても、ぜんぜん嬉しくないんだけど、おそらく庭師的には最大限の厚意なんだと思う。

「あ、ありがとうございます」
「農具でもなんでも、必要だったら、あの物置から持ちだしてかまわないから」

 なんで、こんなに僕に園芸をさせようとするんだろう?
 たしかに自宅でミニバラとマーガレットと蘭は育ててるよ? だからって、異世界に来てまでやりたいことじゃない。

 ……と思ってたら、アンドーくんのようすが変だぞ?
 目を輝かせて満面の笑みだ。

「かーくん。この花壇、ハーブ畑にしてもいいかいね?」
「う、うん?」
「じゃあ、今から作らや」
「えっ? ぼ、僕はお城の見物したいから」
「あっ、そげかぁ。なら、わが一人ですうわ。さっきの力の種、貸してごさん? 収穫したら三倍にして返すけん」
「ほんとに三倍?」
「うん」
「じゃあ、はい」

 そう言えば、アンドーくん、得意技に農業ってあったっけ。
 僕はアンドーくんに力の種を渡し、一人、裏庭をあとにした。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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