第57話 旅に必須、それは馬車

文字数 1,307文字



 朝になると、どこからか猛が現れた。

「巫女姫、助けに行くんだろ?」
「うん」
「おれも行くよ」
「うん」

 夜のあいだ、猛のやつ、どこに行ってたのかなぁ?
 聞きたいけど、聞けない。
 そこは兄弟でもプライバシーかな?

 神殿の外におじいさんが立ってる。

「おぬしたち、旅をするのなら馬車はいらんかね? 仲間が増えすぎるとつれて歩けなくなるぞ。馬車があれば、八人まで、ともに行動できるんじゃ」

 ああ、馬車ね。
 巫女さま助けたら、いるかもな。

「いくらですか?」
「一万円!——と言いたいところじゃが、千円にまけてしんぜよう」
「えっ? いいんですか?」
「わしにはもう必要ないからのぉ。ふぉっふぉっふぉっ」

 銀行に大半、預けたから、僕の現在の所持金は七千円。ま、千円くらい出してもいいや。

「はい。千円」
「うん。たしかに。しかし、ちょうどいい馬の支度がまにあわんでなぁ。おぬしたちが神殿を出立するまでには用意しておこう。またあとで来なされ」
「…………」

 まさかと思うけど、詐欺か?
 馬車を売るよ詐欺?
 お金だけとって商品を渡さない気か?
 いや、薫。
 ダメだぞ。ここはゲームの世界だ。
 現実みたいに詐欺をしかけてくる人は、そうそうイベントでもないかぎりいないはずだ。

「わかりました。よろしくお願いします」

 僕は人を信じることにした。
 信じる者は救われる……はず?


 *

 可憐な花畑をぬけて、森へ入ると、エンカウントが始まった。
 神殿のエリアを出たのだ。

「東にあるって言ってたよね。聖女の塔」
「ですね。なんで、そんなところに向かったんでしょうね?」
「僕らに見つかったせいもあるんだろうけど。しばらく身をひそめてから逃げだすつもりかなぁ?——あっ、小銭、見っけ」

 所持金が六千円に減っちゃったんで、六十円だ。厳密に言えば、プラスアルファのランダム係数で六十三円。現実で六十円拾うと、そこそこ嬉しいものの、ここでは二、三千円ずつ拾ってたからな。ちょっとガッカリ。でも、まあ、これで出てくるモンスターが僕らとのレベルのひらきが少ないことがわかった。

「まさか、また毒虫軍団じゃないよね? それなら、もっと毒消し草、買っとけばよかったなぁ」
「いつも、あんなに毒まみれのエリアばっかりじゃないと思うんですけどね」

 すると、猛が言った。
「このへんに出てくるのはビースト系だよ。ぽよぽよのちょっとレベル高いやつとか。スライムのちょっと強いやつとか。あばれ馬とか。子グマちゃんとか。メレメレとか」
「ふうん。聞いたことないのも多いなぁ。メレメレって何?」
「メレメレーって鳴く鳥だよ」
「どんな敵か想像つかない」
「それよりテディーキングには気をつけたほうがいい」
「テディーキング……テディベアの王様かな? あんま怖そうじゃない」

 僕らはすっかり油断していた。
 名は体を表すっていうし、テディーキングじゃね。

 すると、さっそく、テロップ。


 野生の子グマちゃんが現れた。
 野生のスライムレベル10が現れた。


 さて、戦闘だ。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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