第5話 た、宝箱だ〜

文字数 1,637文字



 歩いていくと、道は二股にわかれた。

「どっち?」
「さあ。僕もここに入るの初めてなので」
「ふうん。じゃあ、右に行ってみるよ?」
「かまいませんよ」

 僕らは右手に折れた。
 少し進むと、そのさきが袋小路になってることがわかった。

「なんだぁ。行き止まりかぁ。戻ろう」

 が、しかしだ。
 美しい蘭さんが、急に鬼の形相で僕に迫ってくる。
 関係ないけど、蘭さんはちょっぴり僕より身長高いようだ。やっぱり現実のデータが踏襲(とうしゅう)されている。
 うーん、ってことは、ほんとは蘭さん、男なんじゃないのかな?
 男の娘?
 でも、姫様って呼ばれてたしなぁ……。

「ちゃんと奥まで行ってください! 行かないと後悔しますよ? 行け! 今すぐ、まっすぐ前見て歩いていけ!」
「は、はい。すいません。ごめんなさい」

 だって、どうせ行き止まりだよ?
 歩数でエンカウントするんでしょ? 回復道具もないし、いきなり初ダンジョンで死にたくないんだけど。
 まあ、言われたから行くけどさ。

 どうせ、なんにもな——あったーッ!
 なんかある。
 あれは、もしや?
 もしかしなくても、た……宝箱だぁー!

 いいの? まだ物語、始まったばっかだけど。もう宝箱ひらいていいの?
 宝箱。その言葉に詰まった夢と希望。
 嬉しい。
 宝箱って百パーセント回収したい派なんだよね。
 二択とか三択で、一つしか選べない宝箱は、臓腑(ぞうふ)をえぐられるようにツライ。

 宝箱〜
 僕のお宝ちゃん。今、行くよ〜

 僕はスキップしながら宝箱にとびついた。と、そのときだ。宝箱の陰からモンスターが現れた。
 スライム三匹だ。
 か、囲まれたー!


 *

「わぁっ! 出たー!」
「かーくん。落ちついてください。言っても、しょせんスライムです。今回は僕も援護しますから」

 そう? じゃあ、さっきも援護してほしかったな。わりと痛かったんだけど。

 そういえば、さっきのバトルのあと確認してないけど、今の僕のHPっていくつなんだ? 死にかけじゃないよね?

 モニターが浮かびあがる。
 どうやら見たいと考えると自動で出てくるらしい。

 えーと、HP10……えっ? 10? 10ですか?
 たった一匹、スライムと戦っただけで、僕のHP半分になったの?
 ええーッ! 僕、弱すぎる!

 ど、どうしよう。
 スライム一匹と戦うのがギリなこの体。
 三匹もいるんだけど?
 必死じゃん。
 この場合の必死は、必ず死ぬ、だ。
 死ぬよ。僕。

 でも、スライムたちは容赦してくれない。可愛い黒い目を三角にしちゃったりしてさ。いっちょまえに、やってやるって顔してる。

「かーくんさん。行きますよ?」
「はい!」

 そうだ。ビビってる場合じゃない。
 スライムたちを倒せば、その奥には宝箱だ。
 宝箱〜
 僕のお宝ちゃ〜ん。

 僕は木刀をかまえると、目の前のスライムをタコなぐりにした。
 ぽこ。ぽこ。ぽこ。叩く。叩く。叩く。
 宝箱。宝箱。早くあけたい。
 ここで負けたら、もしかして夢、覚めちゃうんじゃないか?
 ヤダー! それだけはイヤだー!
 せめて宝箱の中身を見てから死にたい。

 ぽこ。ぽこ。ぽこ。ぽこり。ぽこ。ぽこ——

 お返しタックル。タックル。タックル……。

 イテテ。これが痛いんだよな。
 なんか、めまいがする……?
 あれ? 大丈夫か? 僕。

 そのときだ。

「元気になれ〜」
 蘭さんが素敵な笑顔で歌うように言った。
 すると、ふわりと白い光が僕を包んで、痛みが遠のく。
 治った。ダメージが治った。
 もしかして、これが魔法か?
 ヒール的な癒しマジック?

 とにかく、元気になった僕はあらためて、タコなぐり。
 ぽこ。ぽこ。ぽこ。みぽこ。ぽこ。

 倒した。
 スライム三匹倒した。

 チャラララッチャッチャー。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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