第339話 牢屋のおじさん

文字数 1,317文字



 暗くてよく見えないなぁ。
 でも、見知らぬおじさんのようだ。

「どうする? ほっといたら、このおじさんも処刑されちゃうかな?」
「ほんとの悪人だったら、どげすうで?」
「あっ、そうか」

 小声でヒソヒソ話してたら、おじさんに気づかれてしまった。

「こっ、小人?」
「小人じゃありません。れっきとした人間です」
「クピクピ言ってる」

 そうだった。このサイズのときは僕らの言葉もコビット語になってしまうんだっけ。

「どうしよう?」
「めんどくさいし、小さくしたら、どげだ?」
「悪人だったら?」
「そのときはそのときだわね」

 うん。こういうアバウトな出雲的思考法、嫌いじゃない。

「クピピコ、お願い。おじさんも小さくして」
「心得申した」

 チクンっ。
 おじさんは小さくなった。

「わあっ、なんだ、なんだ? 何が起こったんだ? 小人? わしが小人になったのか?」

 にぎやかなおじさんだなぁ。
 まあ、自分が小人になったら誰でも驚くか。

「すいません。事情はあとで。それより、あなたはなんの罪でここに閉じこめられてるんですか?」
「わしか? わしは王様の頼みを断っただけだ」
「えっ? どんな頼みですか?」
「空飛ぶ乗り物を作ってほしいと言われたんだ。自宅で夜中に便所に行こうとしたら、ガーゴイルみたいなものにさらわれてな。この城につれてこられて、いきなり頼まれたんで、腹が立って断った。それだけのことで、ずっと牢屋に入れられとる」
「それは……災難でしたね」

 この国の王様なら、やるよね。
 たぶん、おじさんが生かされてるのは、心を入れかえて空飛ぶ乗り物を作ってくれることを、王様がまだ期待してるからだ。きっと、すごく腕がいい職人なんだろう。

「えーと、おじさんの名前は?」
「ザッフだ」
「えっ? ザッフ? それって、シルバースターのギルドで鍛冶屋の受付してるおじいさんと同名じゃないですか?」
「ああ。あれは親父だ。ジジロン・ザッフ。わしの名前はダディロン・ザッフだ」

 うーん、ジジロン、ダディロン、ベロベロ……何かが僕の記憶にひっかかるぞ?

「あっ! わかった。もしかして、ダディロンさんって、シルバースターの伝説の鍛冶屋じゃないですか? 息子の名前がベロベロ」
「…………」

 な、なんだろう? この間?
 おじさんは、ふっとため息をついた。

「そう。たしかに、わしは地元じゃ伝説の鍛冶屋と呼ばれていた。だが、わしの息子はベベロンだ。ベロベロじゃない」
「あっ、まちがえた」

 お父さんの前でまちがえちゃった。恥ずかしいっ。ペペロンチーノのほうが、まだよかったかな?

「と、とにかく、ここから逃げだしましょう」
「そうだな。この国の王様はおかしい。わしが投獄される理由なんかまったくないはずだ」
「ですよね」

 僕らはダディロンさんをつれて、牢屋をぬけだした。
 僕らのパーティー、どんどんNPCが増えていく。NPCは馬車の頭数に入らないから何人でも乗れるけどさ。

 お父さんがいなくなって荒れてたベベロンさん。
 その原因はまさかのブラン王のせいだった。夜中にとつぜん蒸発したって話だったけど、そうか。さらわれてたのか。
 お父さんを救出して帰れば、素行もよくなるかな?

 とにかく、無事に外までつれださないと。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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