第206話 これが派閥か?
文字数 1,055文字
困ったぞ。
さっき、ワレスさんと手あわせしたときに二回、傭兵呼びを使ったから、所持金は少し減ってるものの、まだ十九万円以上持ってる。つまり、二千近いダメージを傭兵呼びで与えることができる。
この目の前にいる背の高い(二メートルあるなぁ)黒髪ツンツン男が、どのくらいのHPなのかわからないけど、回避率低ければ、もしかしたら、ほんとに倒してしまう。
そうなると、あとがめんどうな気がした。部下の見てる前で恥をかかされたとかなんとかで、よけいに恨みを買ってしまうだろう。
だからって、わざと負けてやるのもなんか、おもしろくないんだよなぁ。
うーん、能ある鷹は爪を隠すべきか?
そんなことを考えてると、背後からコツコツと足音が近づいてきた。
「おや。デギル隊長。こんなところで何を?」
この声はっ!
ふりかえると、救世主。
クルウが立っていた。
この人もハンサムだよなぁ。
アンドーくんが着てるのとよく似た黒い軽鎧をまとっていて、腰には騎士剣。身長は二メートルまではないけど、一メートル九十はある。
西洋風の武者人形だ。
「かーくんさん。宿舎の用意ができました。案内いたしましょう」
「ありがとうございます!」
僕は手招きするクルウのあとについていった。
ほっ。危険回避。
チッと背後から舌打ちの音が聞こえてきた。だけど、デギル隊長は追ってこない。ここはいったん、ひいてくれたようだ。
充分離れてから、僕は口をひらいた。
「あれが派閥争いなんですか? さっきの人、僕を自分の隊に入れたいみたいだったけど」
「まあ、そうですね。デギル隊長はワレス隊長に対抗心を燃やしているだけです。実力でワレス隊長にかなわないので、ヤキモチを妬いているのですよ。やっかいなのは、むしろ……」
「むしろ?」
クルウは僕をかえりみて微笑した。
「いえ。それより、フィリンドから返信が届きました」
ごまかされたなぁ。
クルウは秘密主義だっけ。
ワレスさんへの忠誠心だけは本物なんで、僕らにも害意はないと思うけど。
「フィリンドからですね。ロランたちと連絡がとれましたか?」
クルウは首をふった。
「勇者たちのパーティーは、たしかに三日前、フィリンドを出立している。だが、そのとなりのノーランの街に到着した形跡がない。ギルドにも立ちよっていないし、誰一人、彼らを目撃した者がいない。フィリンドからノーランは半日で到着する距離なんだが」
「ええーッ! ロランたちが消えた?」
「そういうことになりますね」
ううっ。蘭さんのさらわれ癖。
異世界でも健在だったのか……。