第369話 兄上戦!3

文字数 1,131文字



 兄の手に、いつのまにか、懐剣がにぎられていた。
 ロランはするどい痛みを胸に感じた。
 血がとびちり、急激に体がしびれてくる。次いで、立っていられないほどのめまいに襲われる。

 ああ、死ぬ。
 自分は死ぬんだ。
 死とはこんなにも簡単にやってくるものなのか。

 ロランは遠のく意識のなかで、床に倒れる。
 兄が笑っている。
 ゲラゲラと声をあげて。

「たわいもない。どいつもこいつも、チョロすぎて笑ってしまいますよ。ほほほ。おっと、おとなしくするんだ。誰もその場から動くな。でないと、このまま、らんらんの首をかっ切ってしまいますよ?」

 おどされて、仲間たちは動けない。

「あ……兄う……え」
「だから最初から言ったでしょう? 私はおまえが大嫌いなんだと。憎らしいほど愛くるしい顔で、両親の愛をひとりじめしていたおまえ。早くこの世から消えておしまいなさい」

 ドクドクと血が流れる。
 目がかすむ。

 ヒヒヒといやらしく笑いながら、兄は続ける。

「おまえが死んだら、次はコイツらだ。そのあと、夜明けには地下牢に入れておいた、おまえの友人たちを死刑にする。牢屋のなかから逃げだしたようだが、あそこにはレッドドラゴンがいる。引き返して牢に戻るしかないんだよ。ほほ。すぐに、あの世でいっしょになれますね。楽しみに待っていなさい」

 やっぱり自分は甘かった。
 だから、世界も大切なものも、何一つ守れない……。

 そのときだ。

「まー!」と叫び、クマりんが突進してきた。

 パパを呼んだらしい。
 巨大なテディーキングが天井から降ってくる。
 それを合図にしたように、バランや、バランに変身したモリーもかけてきた。
 素早く兄のふところに入りこみ、ロランから遠ざけるようにして、なぐりかかる。

「えーい! ジャマだ。きさまたち。あっちに行ってなさい。やっつけますよ?」

 みんながポカポカしてるすきに、スズランが走りよってきた。

「お兄さま。しっかりしてください! 元気いっぱい〜!」

 スズランが叫ぶと、傷口がふさがり、痛みがひいていく。

「ありがとう……危なかった……」

 兄は怒り狂った表情で仁王立ちになる。
 兄の体から邪悪な黒いものがしみだしていた。

「違う……これは、兄上じゃない!」

 強い。
 とても強い魔力だ。
 兄の体が急激にひとまわりも、ふたまわりも大きくなったようだ。
 これまで戦ったどの魔物より、はるかに強いことがわかる。

 ロランは不安になった。
 こんな化け物に、自分は勝てるだろうか?

 すると、そのときだ。
 バタバタとろうかを走ってくる足音が響いた。

「お待たせ! ロラン。加勢に来たよッ!」

 かーくんたちだ。
 ロランはふたたび涙があふれてくるのを感じた。さっきまでの苦い涙ではなく、それは、もっと、あったかい。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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