第163話 勇者がモンスターに!

文字数 1,141文字



 とにかく、三十分後にはグレート所長がやってくる。
 どうにかして、この場をごまかさないと。

 そのとき僕はひらめいた!
 そうだ。
 グレート所長はたぶん、アンドーくんたちの存在をまったく認知していない。
 アレをコレしてソレすると、ドレになるんじゃないのか?

 というわけで、三十分後——

「おーい。どうだ? 三十分たったぞ。そろそろ勇者がモンスターになるころだぞよ?」

 グレート所長がドタドタ足音を鳴らしてやってきた。

 さっきまで気を失っていた竜兵士たちは、あわてふためいて敬礼した。
「は、はい。もうよいかと」

 もちろん、途中で失神してたことなんて彼らは言わない。報告なんてしたら叱られるのは自分たちだからだ。グレート所長の叱責とは首を切ることらしいから、竜兵士たちは、みんな口をひきしめて黙りこんでいる。モンスターでも自分の首は惜しいようだ。

「よしよし。どうなったかな。ブッヒッヒ」

 グレート所長はブタっ鼻を鳴らして機械を止めた。手術台がスライドして機械のなかから出てくる。
 シューッと光と煙があたりに充満した。

「勇者と言うからには、さぞや強いモンスターになったんだろうな。わが隊の主要部隊で活躍させてやろうぞよ。ブッヒッヒ」

 ようやく、その光と煙がやむと、手術台の上があらわになった。まぶしい光のなかから、黒いシルエットが現出する。その姿は——

「キュイ?」
「…………」

 グレート所長と竜兵士たちは、自分の目を疑うように、それを凝視した。

「なんじゃ、コレは?」
「ハッ! ぽよぽよかと」
「ぽよぽよ?」
「始まりの街近くに生息するウサギ型モンスターです!」
「そんなこと知っとるわい! なんで勇者がぽよぽよになるのかと聞いとるんじゃー!」
「変身するのは本人の魂の形です。勇者の魂は、ぽよぽよだったのではないでしょうか!」
「えーい! ぽよぽよなんぞ戦闘の役に立たんわい。勇者のくせに、ふぬけたヤツよのぉ。ええわい。こんなものはいらん。捨ててこい」
「ハハーッ!」

 グレート所長は怒って去っていった。

 ぽよぽよは戦力外だって?
 ぽよちゃんに対して失礼だぞ。
 だけど、しめしめ。
 これで僕(勇者)はぽよぽよになったと思われた。
 そう。もちろん、機械のなかに入っていたのは、僕と入れかわったぽよちゃんだ。ぽよちゃん、グレート所長の前では一度も姿を見せたことないからね。ぽよちゃんに代わってもらって、僕はアンドーくんの隠れ身で隠れてたってわけだ。

 竜兵士の一人がぽよちゃんをかかえて、階下へ歩いていく。捨ててこいって言ってたから、外に出すつもりだろう。

 僕らは隠れ身のまま、ぽよちゃんを追っていった。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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