第189話 列車は走……走りません?
文字数 1,232文字
「わあっ、煙が——煙がスゴイ! 前が見えない」
「速いねぇ。馬車よりずっと速いが」
「キュイキュイ〜」
初めての蒸気機関車の旅で、僕らはハシャイでいた。はしゃいでましたよ、はい。
煙はもうもう。想像してたより、かなりの量だった。
スピードはたぶんだけど、時速にして八十キロくらいかな。高速に乗った自動車くらいだ。新幹線になれた現代人には速さはさほどじゃないんだけど、音と煙の迫力には圧倒された。これは、たしかに顔が真っ黒になるよなぁ。
車窓を流れる景色をながめて、上機嫌だったんだけど、さて、サンディアナの街で買っといたお弁当を食べようかと思ったころだ。急に汽車の速度が落ちた。じょじょに減速し、そのうち停まる。
「ん? 駅? それにしては草原のどまんなかで停まるね」
汽車は走ってるものの、基本はRPGの世界だ。大きな街以外は人工物がほとんどない。街のまわりの田園地帯をぬけると、あとはもう森や草原や山ばかりなり。
荷物の流通のためにしろ、人を運ぶためにしろ、停止しなきゃいけない理由は街以外にはないはずなんだけど。
僕らが戸惑っていると、あのおじさんたちが騒ぎだした。
「おい、なんだ? なんでこんなところで停まる? こら、車掌はいないのか?」
「そうよ。わたしたちは忙しいんですからね! こんなところで油売ってるヒマはないのよ?」
あんまりにぎやかなので、機関車から車掌がとびだしてきた。
「すみません! 前方に山びこがいまして。線路をふさいでいます。このままでは通れません!」
山びこ? モンスターなんだろうか?
煙が晴れたんで、前方も見渡せた。
見ると、前方三十メートルのあたりで、線路がブツッととぎれてる。その上に小山が乗っかっていた。
「なんで山が?」
「かーくん。山だないよ。手足がああよ」
「あっ、ほんとだ」
巨人が体育座りしてる。
岩のような肌をして、全身に苔が生えてるので、一見すると山のように見えた。
「山のなかでは、たまに見かけるモンスターです。このあたり、もともとは山があったので。切りひらいてトンネルを作り、王都までつないだのです」と、車掌さんが説明してくれる。
ああ……ファンタジーの世界にも環境問題が。
住処をなくした野生動物とかが迷いでてくるパターンだ。
「どけないと通れないんですか?」
「そういうことです。お客様がたは強い冒険者なんですよね? どなたでもいいので倒してもらえませんか?」
気が進まないなぁ。
自然環境を破壊したのは人間なんでしょ?
きっとあの山びこは山を返してほしいんだと思う。抗議活動中だ。
僕が黙っていると、うしろのほうから笑い声が響いた。
ふりかえると、おじさんだ。
「しょうがあるまい。わしらに任せておくがいい。なぁ、キルミン」
「そうねぇ。ちょっと大きいけど、やれなくはないわ」
おじさんとおばさんは笑いながら外へ出ていった。
あの人たちも冒険者だったのか。
どんな戦いかたをするんだろう?
たった二人なのに、大丈夫なのかな?