第62話 人さらいが現れた!

文字数 1,436文字


 初回に大失敗したので、そのあとは慎重に子グマちゃんを最速で倒し、僕らは森のなかを進んでいく。
 樹木のあいだから、青空とともに、そびえたつ塔のいただきが見えてきた。

「僕の妹って、どんな子なんだろう? 可憐(かれん)清楚(せいそ)なのかな? ずっと巫女として育ってきたわけだし」
「だよね! きっと蘭さんみたいに上品で気高い巫女姫さまだよ」

 僕の期待度はマックスだ。

 あんなに可愛いんだもん。可憐に決まってる。
 きっと助けてあげたら、うるうるしながら「かーくんさん。ありがとうございます」とか言うんだ。
 いいなぁ。美女に感謝されるのって気持ちいい。

 拾う小銭の額がちょっと上がった。
 百円単位になっていく。
 所持金が一万円を超えたらしい。
 まさか、敵が強くなったわけじゃないよね?

 僕が悩んでいたときだ。
 森がひらけてきた。
 木々がまばらになり、塔の入口が見える。

 その前に見覚えのある男女が三人、なにやら争っている。
 まちがいなく、あの黒服の男二人と、蘭さんの妹。祈りの巫女姫だ。

「ほら、あけろ。おまえならこの扉をあけられるんだろ?」
「ついでに聖女の秘宝とやらを奪ってやる」

 男たちが巫女姫をひったてて、むりやり塔の扉をあけさせようとしている。抵抗する巫女姫を男のひとりが殴ろうとした。

 むむっ。女の子に乱暴するなんて、ゆるせないぞ。

 僕はサッと彼らの前に駆けだし、カッコよく宣戦布告した。
「た……助けにきました」

 あ……巫女姫の視線が痛い。
 いいから、あなたはこの人たちに()られる前に逃げなさい——そう目が告げている。

「なんだ、こいつら。追ってきたのか」
「こうるさい連中だ。やっちまおう」
「おう!」

 あっ。これで何度め?
 固定ボス戦のBGMだ。


 *

 人さらいAが現れた。
 人さらいBが現れた。


 黒い服の男たちが並んで前に立つ。
 やっぱり忍者というか、アサシンとか、そんな感じの服装だ。

 ほんとに彼らをさしむけたのは、蘭さんのお兄さんのブラン王なんだろうか?
 そういえば、マーダー神殿のなかで嫌なウワサを聞いたなぁ。近ごろ、ミルキー城には怪しい連中がいっぱい出入りしてるって。
 自分の妹を誘拐しようとするなんて、それはほんとに蘭さんの身代わりとして、コーマ王に嫁入りさせるためだけ?
 なんとなく、それだけじゃないような、もっと深い陰謀が関係してそうなイヤ〜な感じがするんだよな。

 とにかく戦闘だ。
 お姫様を助けないと!
 待っててください。
 僕のお姫様。今、お助けしますよぉ。

 こっちはあいかわらず、先陣は蘭さん。

「みんな、がんばろ〜」

 いつもの呪文を二回、くりかえした。
 が、今回は男たちの素早さがそこそこ高いらしい。
 蘭さんはそこで待機行動に移る。
 それでも二回行動か。
 さすがは流星の腕輪。

 鉄のブーメランが空間を切りさく。
 空間をね。

「うわッ。回避しやる。こいつら、素早いで」
「みたいだね。ということは、僕は地道に装備魔法で行くよ」

 攻撃魔法は回避できない。
 蘭さんの精霊王のよろいみたいに、装備で軽減することはできるけど。

「破魔の剣〜!」

 ダメージは小さいけど、効いてはいるみたいだ。
 もうちょっと攻撃力の高いアイテムが欲しいなぁ。
 自力で攻撃魔法覚えられたら、もっといいんだけど。

 ぽよちゃんは、ためている。
 そして、男たちのターンだ。
 人さらいAが呪文を詠唱した。
「みんな、巻きで行こう〜」

 巻きで行こうって、業界人か!
 てか、ズルイよ。
 もともと速いくせに、素早さ上げてきたー!
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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