第345話 炎まみれの洞くつ
文字数 1,893文字
薄暗い洞くつ。
ときどき熱風が吹きぬけていく。
壁はときどき石組みになり、奇妙な彫刻がほどこされている。
柱で支えられた部分も。
噴火山の地下ってわけでもないのに、妙に地熱が高いなぁ。
火属性たちの住処だからかもしれない。
「広いねぇ」
「そげだねぇ。枝道も多いねぇ」
「ダディロンさんはさきに街側の出口から脱出してもいいんですよ?」
「なんの! ここは鍛冶素材の宝庫だ。まだまだ集めるぞ」
「……そうですか。ありがとうございます」
元気なおじさんだなぁ。
この洞くつのなかでは、冷却水はかなりの戦力だ。つれていこう。うん。迷わず!
にしても、ほんとに広い。
これまで、けっこう洞くつや地下通路はさ迷ってきた。でも、ここは規模が違う。今までのなかで広いなぁと思ったのは、廃墟の研究所から二キロあまり続いていた地下洞くつ。
ここはその倍はありそうだ。
歩いても歩いても、終わりが見えない。
出てくるモンスターは、火竜の子にサラマンダーにビッグブッキーに、ミニドラゴンに、炎スライム。
たまに、さまよえる魔術師ってのが出てくる。これは赤いフードつきマントをつけたガイコツだ。めっちゃ強いし、謎の言葉を吐くし、死ぬ前はふつうの人間だったんじゃないだろうか?
「……はぁ。どこまで歩けばいいのかなぁ? お城から離れてしまってる?」
「どげだやら」
「あっ、宝箱だぁー。やったねー。おおっ、ハープだよ。ハープ。たまりん。炎のハープだって」
ゆらり〜
「装備品魔法は四ターンに一度かかるっていう『火炎のルンバ』か」
ルンバって言われると、なんとなくお掃除ロボットみたいな気がしてしまうけど、詳細を見ると、これがなかなかのもの。
火炎のルンバの効果は、そのターン、パーティーメンバーの力が二倍になる、だ。
力が二倍ってことは、攻撃力が上がる『がんばろ〜』系の呪文とは似てるようで、ちょっと違う。
がんばろ〜系は攻撃力をパーセンテージで上げていき、重複効果が最大200%までって上限がある。けど、力そのものが上がれば、そのがんばろ〜の効果の基礎値が高くなるってことだ。
一ターンだけの効果だけど、力が二倍ってスゴイよ?
ほんとにいいのっ?
神様、ゲームバランス大丈夫っ?
つまみ食いのときも思ったけど、僕らに優しすぎないか?
まさか、それくらいしないと、魔王には勝てないのか?
むしろ不安になる。
ともかく、炎のハープはたまりんの詩神のハープにセットした。
カチン。
炎のって言うだけあって、攻撃力じたい50もあったんで、詩神のハープの攻撃力がいっきに100になる。
たまりんが前衛で戦うことは、そうそうないんだけどね。
そのあとも広大な地下空間を僕らは歩いていく。
「ぎゃー。また、ビッグブッキー! 鋼鉄のブーメラン! スライムが火を噴くよぉ」
「かーくん。ここの敵、強すぎらん?」
「うん。ケロちゃんたちだけじゃなく、僕らのレベルも尋常じゃなく上がるね」
ビッグブッキーは、全体攻撃のできるブーメランでクリティカルって戦法で乗りきった。
サラマンダーが必ずと言っていいほど出てくるんで、つねに緊張感がただよう。
ようやく、回復の泉を見つけた。
「ああ、ここでひと休みできるね」
「よかった。けっこうMP使ったけんねぇ」
「ハハハ! 近ごろの若者は軟弱だな」
そう言いつつ、ダディロンさんはまっさきに泉の水を飲んだ。
なんだよぉ。おじさんだって疲れてるじゃん。
あたりは遺跡っぽい場所で、女神の像と清水の湧きだす小さな泉がある。
石組みの壁にもたれてすわった僕は、ふと光を感じた。
僕の頭のよこあたりにスキマがある。そこから光がもれている。
ん? なんで光?
この壁のむこうに何かあるのかな?
僕はそこに目をあてて、のぞいてみた。
「ああー!」
「どげした? かーくん」
「壁のむこうに部屋がある!」
「えっ?」
壁のむこう。
薄暗いけど、松明の明かりで照らされる室内だ。室内って言っても、豪華な城内や、生活感にあふれた民家ではない。
地下室なんじゃないかな?
壁紙などの張ってない石の壁。
調度品もほとんど見あたらない。
見えるのは、鏡だ。
大きな姿見がスキマの真正面の壁にかけてある。
「ねぇ、これって、ロランが言ってた例の鏡なんじゃない?」
「えっ? どれどれ?」
アンドーくんやイケノくんも頭をよせてきて、かわりばんこに穴をのぞく。
悪のヤドリギにあやつられてるブラン王が、毎晩、見にくるっていう問題の鏡。
もしかして、これかな?
壁のむこう側は無人だ。
のぞいていると、鏡に像が映ってきた。
あっ! あれは、もしかして蘭さんじゃ?