第35話 小説を書くって、こういうこと?

文字数 1,955文字



 朝が来た。
 明け方に小説を書いてから、僕はまた寝てしまっていたようだ。
 なんだか胸のあたりが重い。

「うーん……うーん。重いよ。ミャーコ。どいてよぉ……」

 僕は寝ぼけて愛猫のミャーコにお願いする。
 返事があった。

「キュイ」

 ん? キュイ? ミャーコっぽくないな。
 ほんとに、ミャーコなの?

「キュイ。キュイ」
「うーん……?」

 僕は寝ぼけまなこをこすった。
 ん? なんだろ?
 目の前に幻が見える。
 これは……あれか? 天国?
 僕はいつのまに死んじゃったのかな?
 だって、僕の胸の上に乗っかってるのは、真っ白いふわふわのぽよぽよだ。片耳にハートっぽい模様があるので、ぽよちゃんだとわかる。

「ぽよちゃん?」
「キュイ〜キュイ〜」

 ぽよちゃんは僕の鼻の頭にふかふかの体をこすりつけてきた。

 まわりを見まわすと、やっぱりマーダー山脈ふもとの村の宿の一室だ。
 蘭さんと三村くんが寝てる。
 変だな。天国でもないらしい。

 ぼーっとしてるうちに、蘭さんと三村くんが起きてきた。

「おはようございます。かーくん。シャケ」
「おはようさん」
「お、おはよう……」

 ふつうに身支度とかし始める二人に、僕は問いかけた。

「あの!」
「え? なんですか?」
「ぽよちゃんが……」
「うん。ぽよちゃんも山越えできるんですかね」
「えっ? それだけ? もっと他に気になることない?」
「えーと、エサはニンジンでいいのかなぁ、とか?」
「そうじゃなくてさ!」

 僕は声を大にする。
「ぽよちゃん、死んじゃったよね? 昨日、教会の裏の墓地に埋めたよね?」

 すると、蘭さんと三村くんは顔を見あわせる。

「かーくん。夢でも見たんじゃないですか? ぽよちゃんは、ちゃんと生き返りましたよ?」
「あんだけ喜んどったやないかぁ」

 ええーッ! 何それ?


 *

 えーと……これは、どういうことなんだろう?
 ぽよちゃんは死んだ。生き返らなかった。
 でも、小説のなかでは生き返ったことにした。
 そしたら、ほんとに、ぽよちゃんが生き返った。

 こ、これって、まさか、僕が

生き返ったのか?
 僕の書いたとおりになったってこと?

 なんか……いいのか?
 それって蘇生魔法でも生き返らない人を蘇生できるってこと。
 いや、それだけじゃないのか。
 もっと他のことも全部、僕の思いのままになったり?

 そうだ! バグがあった。
 僕には現在、とんでもない弱点が存在している。

 僕は試しに“小説”を書いてみることにした。


 ***

 ミノタウルス戦のあとはバタバタしてしまったので、ステータスを確かめてるヒマがなかった。
 レベルは15に上がっている。
 僕は朝、目を覚ましてから、あらためて自分のパラメータを見なおした。

 HP140、MP110、力25、体力30、知力63、素早さ35、器用さ55——


 ***

 さあ、ここだ。
 ここまでの数値はじっさいにステータス画面を見て写した。やっぱり何度、見ても僕にはそのあとに幸運の項目がない。なので、てきとうに書いてみることにする。
 スマホの文面の続きに、幸運って書いて数値を入れる。
 どうせなら、へへへ。めちゃくちゃ高くしてやろう。だって、もともとがありえないバグなんだから。このくらいの特権はあっていいはずだ。

 僕は、幸運の数値を9999999999と入れようとした。が、99999まで入れたあと、何度9を押しても、まったくカーソルが動かない。
 どうやら、ゲーム上の最上限数値以上には設定できないようだ。
 しょうがないなぁ。99999で手を打ってやろう。


 ***

 HP140、MP110、力25、体力30、知力63、素早さ35、器用さ55、幸運99998。

 マジック
 元気になれ〜ヽ(*´∀`)
 もっと元気になれ〜ヽ(*´∀`)

 得意技は小銭拾いと小説を書くが使えるようになっていた。

 ここから僕の無双が始まる。
 なんちゃって。


 ***

 さて、書き終えてから、僕はあらためてモニターを呼びおこし、数値を確認した。

 HP140、MP110、力25、体力30、知力63、素早さ35、器用さ55、幸運99998。

 えっ? 9999……8? 8ですか?
 9にしたつもりだったのに。
 うーん。上限まであと1か。
 まっ、いいか。
 少なくとも、これで、僕が小説に書いたことは、すべて真実になるということが立証された。
 スゴイぞ。この技。
 なんでも思いのままじゃないか。
 へへへ。ふひひ……。



 第一部 完
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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