第60話 怒るクマ
文字数 1,150文字
「ああ、テディーキングの“怒り心頭”が発動してしまったな。倍返し攻撃が来るぞ。気をつけろ」と、猛がつぶやく。
ぽよちゃんは、あいかわらず、ギュっと目をとじて、ためている。
あんまり臨機応変にはいかないようだ。
僕はぽよちゃんを抱きあげて、その場からとびのいた。ちょっと離れてテディーキングを見守る。
テディーキングは「倍返しー!」と叫ぶと、いきなり巨体が目の前から消えた。
ん? どこ行った?
パパの仕事部屋。パパとママの寝室。兄ちゃんの部屋。僕の部屋。じいちゃんとばあちゃんの部屋。リビングルーム。
という5LDK一戸建てなみの巨体が、瞬時に消えることなんてできないはずだ。
あれ? なんだろ? 僕のまわりにある、このうっすらと黒い影。
影?
見あげた僕は、ようやく消えたクマがどこへ行ったのか気づいた。
なんてことだ。
ヤツはあの巨大な体躯をものともせず、すさまじい跳躍力で、いっきに森の樹木をとびこえるほどに大空高く舞いあがったのだ。そして、そのまま、僕を下敷きにして着地しようとしている。
こいつ、なんでこんなに強いんだ?
中ボスでもなんでもないザコ敵のくせに。
「危ないッ!」
僕は誰かにつきとばされた。
蘭さんだ。
僕のまわりから黒い影が消える。でも、かわりに蘭さんが——
ドーンとすごい音がして、蘭さんはクマのお尻の下敷きになった。
「ロラーン!」
いくらなんでも、あの重量の巨大物質が高さ百メートルからダイブしたんだ。人間なんて一撃死だろう。
蘭さんは……どうなったんだろうか?
僕と三村くんは同時に攻撃を放った。
鉄のブーメランがテディーキングの片腕をもぎとり、破魔の剣がお腹に穴をあける。綿が宙にとびちる。
そして、ぽよちゃんが突進した!
きれいにテディーキングの顔面に頭突きがキマる。
巨大な子グマは、ふらりとよろめいた。
しかし、最後の力をふりしぼるかのように、残る右手をふりあげる。
そのときだ。
「やめて。クマちゃん。もう戦うのはよそうよ」
ん? この声は、蘭さん?
見ると、蘭さんがクマのお尻の下から這いだしてきた。
スゴイ!
あの巨体の下敷きになったのに、つぶれなかったのか?
「ね? クマちゃん。僕のお願い、聞いてくれる?」
ら、蘭さんの目がうるんでキラキラしてる。夜空にきらめく無数の星が見えた。
はいはい。いくらでもお願い聞きますよ——って、ハッ! 僕は何をしてるんだ?
そうか。これが、蘭さんの得意技、魅了(100%)か。
テディーキングは蘭さんを見つめたあと、ふりあげていた右手で、ぽかりと自分の頭を叩いた。
そのまま、ドスンと地面に倒れた。