第356話 レッドドラゴンの魂

文字数 1,829文字



 勝った。
 もうダメだと思ってたのに、なんとか勝てた!

 正直言うと、僕はまだ心のどこかで、イケノくんのことをちょっぴり疑ってた。もしかしたら、ヤドリギのカケラが残ってるんじゃないかって。
 でも、それは杞憂(きゆう)だったようだ。
 僕らのピンチに助けてくれるなんて。
 信じてなかった自分が恥ずかしい。

「わあっ。かーくん。やったよ! レッドドラゴン、やっつけたよー!」
「うん。ありがとう! イケノくん」

 一陣の風が吹いた。
 身じろぎするほど熱い風だ。
 レッドドラゴンの体が赤く光り、消えていく。

「あっ! レッドドラゴンが」
「消えたね」


 レッドドラゴンを倒した。
 3500の経験値を得た。
 2000円を手に入れた。
 レッドドラゴンは宝箱を落とした。
 レッドドラゴンのマントを手に入れた。
 レッドドラゴンは名人の技を遺した。
 レッドドラゴンの職業の魂を手に入れた。


 音楽が変わり、テロップが流れる。
 赤く澄んだ光が僕のほうへやってきて、両手の上で丸い玉へと凝っていく。
 これか。レッドドラゴンの魂。
 前に火竜も落としたっけ。
 あれ? てかさ。もしかして、山びこが落としたのも、コレだったんじゃないか?

 と思ってたら、テロップが——


 かーくんは山びこの魂を思いだした。
 職業・山びこにつけるようになった。


 ええーッ!
 職業・山びこ? 何それ?
 流行りだから、おいしいの? って言ってみる。
 職業で山びこ……うーん。山びこが使ってた得意技が使えるようになるのかな? 守る、か。それ以外はよく覚えてないけど。
 まあ、巨大だったから、マスターボーナスでHPとか体力とかはボーナスつきそうだなぁ。
 ありがとう。山びこ!
 きっと、山びこは僕が子鹿を傷つけることはないって信じてくれたから、魂を託してくれたんだ。ジーン。感動!

 そうかぁ。職業の魂って、むしろモンスターから手に入れるものだったんだな。そうだよね。人間を死なすわけにはいかないもんな。

 レッドドラゴンは体ごと消えてしまったんで、その場に戦闘勝利ぶんのお金と宝箱が落ちていた。

 レッドドラゴンのマント。
 うわー。すごいキレイな真紅のマントだ。最高級クオリティ。マントだから装飾品あつかいだ。装飾品なのに防御力が高い! よろいなみに50だ。

 それに付加効果もスゴイ。
 火竜の加護っていうのがついてて、火属性ブレスは100%吸収。その他のブレス攻撃は50%ダメージ半減だ。
 しかも、しかもだ。さらにその上、装備品魔法を使うことができる!
 パーティー全体のブレスダメージを20%軽減してくれる魔法だ。

 これ、さっきの戦いであったらラクだったのになぁ……。

 僕らのなかで火属性が弱点なのは、バランだ。ほんとはバランにつけさせると、弱点を克服できていいんだけどなぁ。

 ケロちゃんが、じっとこっちを見てるぞ。赤いマントを着てみたいようだ。
 ああ、そんなつぶらな瞳でみないでよ。

「…………」
「……ケロ」
「……ケロちゃん」
「ケロケロ!」

 まだ、なんにも言ってないけど、今の感じは『欲しい、欲しい。着てみたい』と言った。

「ケロちゃん」
「ケロ?」
「あのね。今ここにはいないけど、バランがね。火属性に弱いんだよ。知ってるよね?」
「ケロ」
「だから、ロランたちと合流したら、このマントはバランにあげようと思うんだ。バランは前衛に立つことが多いしね。かばうや守るも使うから、弱点はないほうがいいからね」
「ケロケロ」
「だから、お城に入って、バランに会うまでのあいだだけでいいなら、このマント、着てみる?」
「ケロ〜!」

 石化舌が僕の顔面をペロン。
 まあいいよ。
 とびついてくるケロちゃんは可愛い。

 ケロちゃんはHP低いから、この火祭り洞くつを出るまで、ブレス攻撃にさらされないのは悪くない選択だ。

 僕はケロちゃんの肩にマントをまわした。マントが小さくなって、ケロちゃんにちょうどよくなる。
 炎シリーズ一式と真紅のマントは、セットみたいで見ためもカッコイイ。

「さ、じゃあ行こうか! きっと、このさきに城内へ通じる道があるよ」

 僕らはレッドドラゴンのいた岩場をつっきって、対岸に渡った。
 猫車が橋を渡りきったときだ。
 とつじょ、ガラガラと岩場がくずれた。マグマのなかへと崩壊していく。
 レッドドラゴンの魔力で保っていたのかもしれない。

 きっと、あの火竜の王はずいぶん昔からここにいて、自分の魂を引き継いでくれる者の訪れを待っていたんだ。

 なんだか、そんな気がする。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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