第290話 関所についた
文字数 1,469文字
森スライムの名前はモリーになった。
僕はメロンってつけたかったんだけどな。メロンって呼びにくいって蘭さんが言うからさ。
森スライムは将来の主戦力候補だ。
とくに『みんな、ありがとう』を使える人員が二倍になれば、全滅回避も二倍になる。
森スライムの現在のステータス。
僕がチューチューしたけど、仲間になったときにレベル1に戻ってるせいで、そこは無関係みたいだ。
モリー、レベル1。
HP30、MP10、力1、体力2、知力1、素早さ2、器用さ2、幸運3。
マジック
そっくりさん〜Σ(・ω・ノ)ノ
得意技
変身
プルプル
合体
数値が低い……なんだ、このお母さんに渡すことためらって隠し場所を必死に探す小学生の通知表みたいな数字のオンパレードは?
典型的なイチニ、イチニ体操。
でも、これまでのメンバーはレベル1のとき、MPは必ず0だった。モリーはすでにMPが10もあるんで、もしかしたらMPの伸びがすごくいいのかも?
知力は低いけど、回復魔法や補助魔法を覚えさせて、後衛援護スキルを身につけさせれば、変身以外でも使える戦士になる。
ふだんは後衛、ピンチに『変身』だ。
そっくりさんって魔法は、どうやら『変身』と効果はいっしょだ。が、これはパーティーのほかの人にもかけることができる。
そうこうするうちに関所が見えてきた。
お金も八億以上、拾った。
竜の岬から、ほんの三キロほど歩いただけなのに。
戦闘のたびにチューチューしたので、数値もまた上がった。天井知らずだ。
ボイクドとウールリカの国境にあるのは、なかなかの大河。泳いで渡るのは、よっぽど水泳に自信がないとムリそうだ。
橋が一本かかっていて、鉄柵がとりつけてあった。その手前に兵隊さんの詰所がある。詰所には二、三十人。鉄柵の前に二人。
「なんだ? おまえたち。ここは通行禁止だぞ」
「通行証がないと通さない」
「えっと、僕らが渡りたいわけじゃ……」
「通行証がないと通さない」
「…………」
ここも頑固なNPCだ。
同じセリフしか言わない。
「オンドリヤっていう織物名人が来ませんでしたか?」
「通さない」
「二日前なんですけど」
「通さない」
「村の人が心配してて」
「通さない」
ダメだ。話になんないよ。
ため息をついてると、笑い声が聞こえた。詰所のほうだ。
ふりかえると、隊長のマントをつけた男がいた。あっ、違った。女の人だ。ベリーショートだから男かと思ったよ。よろいの肩パットのせいで肩幅もあるし。
「なんか、おかしかったですか?」
「ああ、ごめん。ごめん。任務中の兵隊は決まった返答しか許されてないんだよ。名前は知らないけど、二日前にここに来たばあさん、いたよ。弟子とかいう若い男をつれてたっけね」
「あっ、そうなんですね。その人たち、どこに行きましたか?」
「さあ。帰ったんだと思うけど?」
それが帰ってないんだよなぁ。
てことは、寄り道してる可能性が高い。やっぱり、古いトンネルってやつだろうなぁ。
「ちなみに、どっちの方角に向かいました?」
小麦色の肌の女隊長は、クイッと親指で方向を示した。それによると、おばあさんたちは東のほうに行ったようだ。
「ありがとうございます」
「いいってことよ。あんた、名前は?」
「かーくんです」
「ふうん。あんたたちか。最近になって近衛騎士長が城につれてきたお気に入りってのは」
「あっ、ワレスさんのことですね」
「そう。あたしはパトラ。よろしくね」
パトラ隊長のウィンクも悪くはないんだけど、なんとなく、ボイクド城の派閥争いの匂い。
兵隊のあいだにも、いろいろあるのかなぁ?