第373話 友人とお母さん
文字数 1,234文字
「ひひひひ。どうだ? 動けまい。だから人間ってヤツは愚かで生ぬるい下等な生き物なのだよ。そうやって歯ぎしりしながら、永遠にアタフタしておればよいのです。ほほ」
こいつ、腹立つなぁ。
“ですます”でしゃべるときと“だである”でしゃべるときとあるのは、コイツの二面性を表してるんだと思うな。
一見、へりくだって丁重に見えるけど、そのじつは自分以外のすべての者を見下しているんだ。興奮してくると、その醜い内面がポロポロこぼれおちてくる。
それにしても、これじゃ動けない。
ブラン王には王としての決意があった。
だから、彼を倒すことは苦しいながらも意味があった。
でも、蘭さんのお母さんには、それがない。ただ捕まって人質にされてるだけだ。これ以上、蘭さんの大切な人を犠牲にはできない。
僕らは誰もが硬直して、なりゆきを見守った。
この根性のくさったサイコ野郎をなんとかして倒してやりたいんだけど……。
でも、その体はイケノくんなんだよな。ちゃんといい感じにやっつけないと、イケノくんに何かあっても困る。
ああっ! もう、なんでこうダブルで人質とってくるかな?
ほんとに根性くさりきって、ナメクジのエサにもならないよっ!
友達と友達のお母さんが一度にピンチ!
悔しいけど、言われたとおり歯ぎしりギリギリしてたときだ。
僕のとなりで、悲しげな声が聞こえた。
「……セイヤ。もう元には戻らんで?」
アンドーくんも、つい先日、お母さんをあやつられてツライ思いをした。今また幼なじみが同じヤツに取り憑かれ、友達のお母さんを殺そうとしている。
友達のイケノくんのことは助けたい。でも、蘭さんの気持ちも痛いほどわかるはず。
「ははは! 何を言っているのですか。もとに戻る? そんなことあるわけないじゃありませんか。以前、あなたがたに倒されて、あやうく死にかけて王都に帰ってきたときに、この男の存在価値はなくなったのですよ。できの悪い暗殺者をそのまま放置しておくと思うのですか? 私はそれほど暗愚ではありません。ほほ」
ゾワリと冷ややかな空気が流れた。
こいつ、いったい、イケノくんに何をしたんだ?
道端に倒れて記憶を失ってたっていうのは嘘だったのか?
それとも、僕らと再会させるために、あえて記憶を消して放置しといたのか?
だとしたら、その前に何を……。
ほほほほほほ——と、ヤドリギは不気味な笑い声をあげた。
「おまえたちが、いずれ、この城にやってくることはわかっていました。だから、そのときのために、余興を用意しておいたのですよ。ゴドバはただの筋肉バカですが、彼の腹心の部下のグレート研究所長は使える男だ。彼の新しい研究は、人間をすぐにモンスターに変身させるのではなく、任意のときにそれが起こるようにコントロールすることです。ふふふ。まだ実験段階ですがね。どうやら、それは成功だったようだ」
ああ……イケノくんの姿が、どんどん変わってくる。
大きく、大きく、天井につかえるほど大きくなって……。