第272話 初カジノ
文字数 1,734文字
カジノ。
ボイクド国の王都のギルドにはカジノがある——と聞いてたのに、この前から、それらしいとこがないなぁ。
「あのぉ。おばあさん。カジノって、どこにあるんですか?」
「おばあさんではないわい! 大合成魔女さんでございますですよー!」
「あっ、そうでしたね。大合成魔女さん。カジノはどこですか?」
「三階に行ってみなされでございます」
合成屋のおばあさんに教えられて、僕は三階へ行こうとするんだけど、そもそも三階への階段が見つからないんだよねぇ。
「おーい。カジノー? どこにあるのぉ? カジノやーい?」
ウロつく僕が迷子のぽよぽよに見えたんだろう。預かり所のハロウさんがやってきた。サンディアナのフラウさんのいとこだ。
「どうしたの? カジノの場所がわからないの?」
「はい」
「わかりにくいところに階段があるものね。こっちよ」
フラウさんも優しかったけど、ハロウさんもいい人だ。お姉さんにしたいタイプ。
ハロウさんが僕の手をひいてくれて、えへへ。
たまりんが肩にぶつかってくるけど、まあいいや。
僕らは預かり所と仕事斡旋所の前を通りすぎ、奥のせまいろうかを歩いていく。そこで行き止まりだ。
「あのぉ?」
「ほら、ここよ」
えっ? ここって?
ただの壁なんだけど?
ハロウさんは壁の一部をコツンと手で叩いた。
わッ。ビックリ。
壁がグルンとまわって、その奥の空間が見えた。
あれだ。忍者屋敷にあるやつ。どんでん返しって言うんだっけ?
壁と思ったその奥に、四畳半くらいの空間があり、そこに、らせん階段があった。
「ここからは一人で大丈夫よね?」
「はい! ありがとうございます!」
親切だなぁ。ハロウさん。
手をふってお姉さんが去っていく。
僕とたまりんはらせん階段をのぼっていった。この秘密基地っぽい造り。いやでも期待が高まるよ。誰だろなぁ? こんな憎い演出したのは。
階段をあがると、その上も四畳半くらいの小部屋になっていた。照明が暗いんだよね。
目の前に扉がある。
僕は思いきって、それに手をかけた。
力を入れると音もなくひらく。
にぎやかな音楽があふれてきた。
光もこうこうと照ってる。まぶしい。目をあけてらんない。
視界が光になれると、ようやく、室内が見渡せた。広い。一流ホテルの披露宴会場くらいはある。一階ぶんが、まるまるカジノになってるんだ。
「いらっしゃいませ〜」
「カジノへようこそ!」
おおっ! ズラリとならんだバニーさん。網タイツの
ネオンが色とりどり。光の花。
もう立ってるだけで夢の国だよね。
ぼうっとしてる僕のそばに、背の高い男が近よってきた。タキシードを着たおじさんだ。誰かに似てる。髪がフサフサだけど、仕事斡旋所のヤットさんに似てるなぁ。
「ようこそ、カジノへ。初めてですか?」
「はい」
「では、まずカジノ専用のメダルを買ってください」
「わかりました」
手で示されたメダル売り場へ行くと、バニーちゃんがレートを教えてくれた。
「いらっしゃいませ。カジノで遊ぶためにはメダルが必須ですよ。一枚二百円で購入できます。遊びの種類によって必要なメダルの数は違いますので、くわしい説明は各コーナーの係に聞いてくださいませ」
たしかずっと前に、どっかでここのカジノの景品ですごいものがあるって聞いた気がする。鞭だったような?
「ところで、景品って教えてもらえます?」
「こちらになりますわ」
お品書きだ。
リストには、景品の名前とメダルで交換できる枚数が書かれている。
妖精の涙(大粒)500枚。
種セットA1000枚。
種セットB2000枚。
魔法の秘伝書『みんな、元気になれ〜』3500枚。
風のバンダナ5000枚。
女神の涙10000枚。
稲妻の剣25000枚。
あれ? ないぞ。
最強装備の鞭だったはずなのにな。
「すいません。すごく強い鞭があるって聞いたんですけど?」
「クィーンドラゴンの鞭ですね? そちらは会員制の高級カジノにしか置いていない景品になります」
「会員になるにはどうしたらいいんですか?」
「冒険者ランクA以上であること。年会費百万円をお支払いいただくこと。億万長者の称号をお持ちであることが条件になります」
あっ、全部クリアだ。
いきなり高級会員か。へへ。