第287話 森モンスター
文字数 1,229文字
さて、戦闘。戦闘。
僕は蘭さんが行動するのを待ってるあいだ、その場でかるく足ぶみする。これだけで『巻きで行こう』がかかるなんて、ほんと我ながら卑怯だと思う。
バランが前衛に立ってないんで、蘭さんが「みんな、がんばろ〜」と、いつもの呪文を使う。
「どれから倒しますか?」と、蘭さん。
「火の玉グリーンは魔法しか効かないよね。風属性だから、弱点は火属性かな。憑依してあやつられると、めんどくさいから、最初に火の玉?」
「そうですね。じゃあ、僕は魔法で行きますね」
「うん」
蘭さんは魔法使いなんで、今は知力も上がってるし、呪文も『もっと燃えろ〜』をおぼえた。火の玉のHPは低いから一撃で倒せるだろう。
しかし、蘭さんが「もっと燃え——」まで言ったときだ。
ふら〜っと馬車から、たまりんが現れる。
「たまりん?」
たまりんは呼びかける僕を無視して、火の玉グリーンに近づいていく。
火の玉同士だからシンパシーを感じたのか?
ん? たまりんがグリーンのなかに入った! ま、まさか、憑依したのか?
すると、どうだ!
目の前に、こことは違うどこかの景色が現れた。たぶん、火の玉グリーンの記憶なんだろう。大勢の人が森のなかで暮らしている。人……ではないのかも? みんな、すごく美形だし、肌の色が真っ白で、あわい金髪や銀髪で、耳が少しとがっていて、これはまるで話に聞くエルフのようだ。
キレイな男女が幸せそうにツリーハウスで暮らしている。
だけど、そこに何かが襲ってきた。
魔物……か?
黒い淀んだ空気をまとい、見るからに邪悪な黒鱗のドラゴンや、ゾンビ、瘴気そのもののかたまりのようなものや。
そんなものが美しい里をふみ荒らし、破壊のかぎりをつくし、エルフたちを皆殺しにしていく。
まだ少女のように若い母親が、幼いわが子をかかえ、必死に逃げる。そのあとを背後から追いすがり、ドクロの群れが乱暴に彼女の肩をつかんで地面にひきたおし、骨のこんぼうをふりおろした……。
やめてくれ。かわいそうだ。
その人はもう死んでるよ。
幼い子どもも、めった打ちにされて原形をとどめてない。
残酷すぎる光景に、僕は涙があふれた。
「やめろよッ! もう!」
空中につかみかかっていっても、それは過去に起きた幻影だ。
すうっと幻は消えた。
明るい森のなかに帰ってきた。
グリーンの火の玉は薄れて消えてしまった。
「この森で、かつて争いがあったのかもしれませんね。魔族と精霊族が戦争していたのか」と、蘭さんがつぶやいた。
「違うよ! あれは虐殺だった!」
「わかってます! でも、過去のことだ。僕たちにはどうしようもない……」
ふりかえると、蘭さんも泣いていた。
そう。あれは幻だ。少なくとも、今現在、起きていることじゃない。
でも、それに似たことは、この世界のどこかでは、すでに現実に行われている。
魔族の侵攻——
あの幻影が時を超えて、今また、くりかえされようとしている。
止めるんだ。
僕らが、あれを止めないと!