第358話 鏡の間

文字数 1,309文字



 おっと、だけど、待て。待て。かーくん。落ちつかないとね。
 こっち側だけじゃ開かないんだ。
 むこう側にクルウたちの隊も来てないと。

 僕のお財布、盗ったのは、たぶんクルウの隊の誰かに違いない。

 僕らの隊は、僕がずっと預かりボックスを持ってたし、ポシェットから出してるときも、つねに数人の目があった。僕も見てた。財布や大量の金貨がとりだされれば、いやでも目についた。

 蘭さんたちの隊は会食中だし、それに蘭さんやスズランが僕に断りなくお金を持ちだすとは思えない。もしも持ちだしたなら、どんな理由があったにしろ、とりあえず断りの手紙くらいはいっしょに書き残してるはず。

 となると、やっぱりクルウの隊しかないよね。クルウがやったとは思えないから、部下の誰かがクルウの目を盗んで、こっそり、とりだしたんだろう。

 僕はまた拾えばいいから、いいんだけどさ。くすん。

「ここだよね。さっきは鏡の正面から見えたけど、今は横からだから、鏡は見えない。でも、壁とか松明の位置とか、部屋の広さとか、こんな感じだった」
「うん。そげだね」
「洞くつから、いきなり、ここに来ると思わなかったなぁ。城内に入ってから、あちこち歩きまわるんじゃないかと思ったよ」
「あけてみぃか」
「あっ、待って。むこう側に到着したか、クルウさんに聞かないと」
「そげか」

 僕は大急ぎで預かりボックスをポシェットから出した。
 預かりボックスのなかに新しい手紙はなかった。古いほうは一つにまとめてヒモでくくってある。
 僕は紙と鉛筆を出して、手紙を書く。
 中世でも鉛筆はあったよね。
 ここは、なんちゃってだから、時代考証、気にしてないけどさ。

『ユニコーンのスイッチのある壁のところまで来ました! かーくんより』

 すると、すぐにコトンと音がして、クルウから返事が来た。

『お待ちしておりました。さっそく開けますか?』

『同時にスイッチ押さないといけないんですよね? 時間をあわせましょう。時計は持ってますか?』

『あります』

『じゃあ、八時四十五分ちょうどに』

『了解です』

 僕はスマホの画面をながめて、その時が来るのを待った。
 三分前。二分前。一分前。
 待ってると長いなぁ。
 カップ麺が作れる。

「よし、今だ!」

 ユニコーンの頭に手をかけて……えっと? 押すの? 引くの? それとも押しこむの? まわすとか?
 あわてたけど、押しこむのが正解だったようだ。

 カキンッと金属的な音。
 どっか離れた場所から、歯車か何かが動きだすような軋む音がする。
 ジャララ、ジャララというのはクサリが巻きとられるときの音かな?

 やったよ。
 僕らの目の前で、壁が天井までひきあげられる。

「みんな、行くよ!」

 急げ。急げ。
 自動ドアみたいに一定時間で壁がおりてきたら大変だからね。

 僕らはすばやく、ほの明るい室内にかけこんだ。猫車が移動するのを待っていたかのように、壁がガラガラとおりてきた。やっぱり自動ドアだったか。

 むこう側からも、クルウたちがかけこんできていた。
 ようやく、二隊は合流だ。
 はぁ。戦力倍増。
 これでちょっとは安心かなぁ。

 鏡の間。
 壁一枚にさえぎられて入れなかった場所に、ようやく僕らはたどりついた。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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