第120話 魔法の地図
文字数 1,814文字
竜の岬めざして、僕らは進んでいく。
今回は遠出なので、スズランやアンドーくんとも合流して、馬車の旅だ。
馬車の外には、僕、蘭さん、三村くん、クマりん。アンドーくんは今、魔法使いなんで、なるべくMPを温存しないといけない。ぽよちゃんは、ためるしね。
「アンドーくんは以前にドラゴン倒したことがあるんだよね?」
「ああけど、あれは兵士だったころに、一個中隊で倒しに行ったけん、あんま関係ないかもしれん。わは遠くのほうから弓矢打っとっただけだわ」
「そうか。軍隊での戦いか。四人パーティーでは、したことないの?」
「ドラゴンはないね」
うららかな春の陽気のなか、僕らは北の岬へと向かう。ボイクド国は世界地図で言うと、西欧の北のほうくらいの位置かな。
「三村くんの持ってる地図、見せてくれる?」
「ええで」
歩いた範囲だけが色つきになっていく魔法の地図。まだ僕らの歩いた範囲は、とても少ない。
「この地図、僕も欲しいなぁ」
「売ったろか?」
「えッ?」
「それ、おれのおとんの手作りやし。なんぼでもあんで」
「えッ?」
三村くんのお父さんは現実ではお好み焼き屋さんだ。ファンタジーの世界では魔法の地図職人に……ず、ずいぶん違う業種に化けたなぁ。マーダー神殿で転職したのかな?
「じゃあ、売ってよ。いくら?」
「次にかーくんが拾った小銭ぶんでええで」
ぼ、ぼるなぁ……。
昨夜の迷路の森の冒険は、帰りはアイテム使ったんで、片道ぶんだったけど、それでも三十万拾った。それを全部貯金したんで、今の僕の貯金は二百万円を超えた。つまり、一回で拾う小銭は二万だ。もはや小銭ではない。大金だ。アパレルショップで働く僕の二日ぶんの日給以上……考えると虚しくなる。
「わかったよぉ。いいよぉ。買うよ」
「ほな。これ、魔法の地図な。新品のやつやで」
僕は三村くんから丸めてヒモでしばられた地図を受けとった。
話してるそばから、小銭を拾う。
「はい。じゃあ、これ。くぅっ。二万三千円」
「へっへっへっ。まいど」
まあ、いいんだけどね。小銭くらいすぐにまた拾うから。
僕はあらためて地図を見なおした。
色は三村くんのやつより、さらに少ない。まあ、三村くんは僕らと出会う前から旅してたしね。
「ねえ、シャケ」
「なんや?」
「これ、不良品じゃないの?」
「なんでや?」
「まんなかに穴があいてる」
「ん? ほんまやな」
地図のまんなかに、ぽっかりとあく丸い穴。なんですかねぇ?
僕は穴に目をあてて、三村くんの顔をながめた。
三村くんは地図をとりかえてくれなかった。
「おとんが言うには、地図はその人の心の世界なんやそうや。だから、穴があいとるんなら、かーくんのせいやな」
ええーっ? 何それ?
僕の心にポッカリと穴があいてるとでも?
「ふうん。まあ、いいけどさ」
この穴に何かの意味があるかもしれない。ないかもしれない。あるとしたら心のスキマか?
そんなこと言ってるうちに、そろそろ竜の岬が近づいてきたかな。
このあたりのモンスターは植物系が多い。姫リンゴや、ダンディライオンや、イバラの騎士や、ガブガブ草や人面樹だ。
姫リンゴはリンゴのお姫様。リンゴっぽい形のドレスを着た、赤リンゴの飾りをつけた、丸っこい三頭身のお姫様。
ダンディライオンは、タンポポのお母さんとライオンのお父さんのあいだに生まれたようなモンスター。たてがみがタンポポの花びらになっていて、ポンデリングのようだ。
イバラの騎士はたぶん
カラーリングが何種類かあるけど、能力が違うのかな?
赤い花のイバラの騎士は黒いぽよぽよに乗ってる。黒ウサギも可愛いな。目がグリーンだ。
じつはガブガブ草がこのへんのモンスターのなかでは一番デカイ。
食虫植物みたいな見ためで、文字どおりガブガブかみついてくる。
野生の姫リンゴが現れた!
野生のイバラの騎士が現れた!
野生のガブガブ草が現れた!
はいはいはい。戦闘ですねぇ。