第288話 まだいた、オランウータン
文字数 1,107文字
つかのま、涙が止まらなかった。
「ロラン。あんなことが二度と起きないように、絶対、僕らが魔王の進軍を止めようね」
「うん。僕はもう、どんなことがあってもくじけないよ」
肩を叩きあってたんだけど、ウッホウッホと咳ばらいのような声が聞こえてくる。
ん? あっ、まだ戦闘中だったっけ。
オラタンと森スライムが、ぼーっと立ってる。森スライムはプルプルゆれてる。
「あっ、戦わないと」
「そうでした」
「僕のゼリーちゃんが待っててくれてる」
「じゃあ、オラタンからやっつけますよ?」
「お願い」
蘭さんはふつうにムチをふるった。
一、二、三回だ。
ガブキングほどじゃないけど、モンスターの素早さが、これまでより上がってきてるみたいだ。蘭さんのステータスじたいがもっと上がれば、流星の腕輪の素早さ二倍効果が、また活きてくる。
早くたくさん職業マスターして、ボーナス補正でステ上げないとな。
オラタンは蘭さんのムチの前に倒れた。
あとは森スライムだけか。
僕は待ってるあいだも、ずっと足ぶみしてたんで、ぽよちゃんの素早さをぬいてしまっていた。ぽよちゃんが順番を待ってる。
よしよし。じゃあ、ぽよちゃんの前にチューチューしよう。
ランクアップしたから、三回吸えるんだよね。
僕は「わ〜い、わ〜い」と言いながら、あたりを走りまわる。これ、何も知らない人には、僕が発狂したように見えるんだろうな……。
充分、素早さが上がったところで、さっ、いざストローだ。
チューチュー。
チューチューチュー。
も一回、オマケにチューチューチュー。
うーん。森スライムはマスカットじゃないな。メロンソーダっぽい味だ。うまうま。
攻撃はできなかった。
素早さが上がりきってはいないらしい。
「じゃ、ぽよちゃん。お願い」
「キュイ〜」
ぽよちゃんの通常攻撃。
シャッ、シャッと青い軌跡が森スライムを襲う。キマった!——はずなんだけど、森スライムは倒れなかった。意外とHP高いのかな?
「かーくん。プルプルです! 森スライムは体をプルプルふるわせることで、受けた攻撃を拡散させ、ダメージを軽減してるんですよ」
「なるほど!」
たしかに、ぽよちゃんの二連打を耐えるとなると、そうとう固くないといけないが、そうは見えない。固さ以外に原因があると考えられる。
プルプルゆれることに、そんな秘密があったとは。
「じゃあ、最後はケロちゃんで」
「ケロ?」
ケロちゃんは動けないようだ。
そうか。さっき、たまりんが行動しちゃったから、僕らのターンが終わったことになったのか。
森スライムだけ生き残っちゃったな。
ま、いっか。
どうせ、メロンソーダ味のスライムだ。たいした攻撃はできないだろう。