第114話 夜営地の森は迷路だった

文字数 1,543文字


 夜のワールドマップ。
 こっちのメンバーはギリギリ四人。
 しかも、そのうちの一人(一匹)、ぽよちゃんは熟睡中。
 耳をたらし、僕の腕のなかでスースー寝息を立てる、ふかふかのウサギ。めちゃくちゃ可愛いんですけど? 戦力にはならないんだけどね。

「お金、拾えるなぁ。平均一万八千円……もうすぐ二万拾えるようになるね」
「いいなぁ。かーくん。わも欲しいわ」
「ほんと、なんで僕にだけ見えるんだろうねぇ?」

 ワールドマップに出てくる敵は昼間と同じモンスターが大半だ。でも、狼形のモンスターのウルフィンや、人面樹は初出。まあ、僕らの敵じゃなかった。ぽよちゃんが寝てるし、たまりんがあんまり戦闘むきじゃないものの、僕とアンドーくんだけで退治できた。

 森まではすごく近距離だった。
 街を出てすぐくらいの位置にある。
 大変だったのは、そこからだ。
 樹木が密生して、ものすごい迷路になっていたからだ。

「くうっ。ここ、一回、来た道だ」
「こっちは袋小路になっちょうね」
「もう。どこにいるんだよ。サーカス」
「一番、奥だない?」
「まあそうだよね」
「あっ、かーくん。こっち行けぇわ。道が隠してああよ」

 アンドーくんが手招きして示したさきには、イバラの茂みがあった。よく見るとイバラは作り物。そのさきに道があった。いかにも怪しい。きっと、この道の奥にキャラバンがいるに違いない。

 急いで進みたいのに、そんなときにかぎって、モンスターが現れる。


 野生の人面樹A、B、Cが現れた!


 また戦闘か。
 ぽよちゃん、そろそろ起きてくれないかなぁ。
 僕はため息をつきながら、そっと、ぽよちゃんを地面に寝かせた。

 人面樹はさほどの敵じゃない。
 ここへ来るまでに何度も戦ったけど、攻撃もノーマルだし、とくに変な攻撃してこない。弱点も火属性とわかってる。破魔の剣の装備品魔法でも、けっこうダメージを与えられた。
 まあ、これまでは三体同時に出たことはなかったけど、特殊攻撃しないんだから何体出ても同じかな。

「はいはい。ぽよちゃん、待っててねぇ。ちょちょいとやっつけるよ」

 ぽよちゃんは「キュイ〜……」と、寝言をもらした。
 この幸せそうな寝顔を守るために、がんばらないと。

 このメンバーのなかで一番速いのはアンドーくん。呪文一発。
「燃えろ〜」

 魔法使いに転職したので、数値にも補正が入ってるし、杖装備によって魔法攻撃力が上がってる。


 人面樹Aに82のダメージ。
 人面樹Aを倒した。


 よしよし。順調。順調。
 じゃあ、次は僕ね。
 僕は一発では倒せないから、クリティカル頼み。

「やあー!」と、かけ声もだいぶ勇ましくなった。
 スライム叩いてたころの僕に見せてやりたい。

 出たー! クリティカル!


 人面樹Bにクリティカル攻撃!
 175のダメージを与えた。
 人面樹Bを倒した。


 やったね。これで、人面樹Cだけ。
 けど、たまりんの「冷たくなれ〜」は人面樹には、あんまり効かないんだよな。
 一体残ってしまった。

 まあ、次のターンで倒せば充分だ。
 ぽよちゃんが反撃くらわないようにだけ気をつけよう。
 ぽよちゃんは寝てるんで、戦闘不能あつかい。

 すぐに人面樹の攻撃ターンになった。
 そのときだ。
 とつぜん、人面樹がカッと目を見ひらいた。

 え? 何事?
 こんな動作、今まで見たことないんだけど?

 思わず、おびえる僕。
 人面樹はニヤリと笑うと、見ひらいた目を今度は半眼にした。そして——

 ん? なんだ、この透きとおるような歌声は? いい声だなぁ。気持ちいい……。

 ねむねむ。ねむねむねむ……。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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