第363話 ミラン様の語る真実
文字数 1,520文字
「かーくんさん。わたくしはブランの母、ミランです」
「えっと……」
クルウの言ったとおりだった。
僕が見たことがある気がしたのは、以前、ココノエ前王の寝室に飾られてた、家族の肖像画を見たからだ。今の奥さんと前の奥さん、両方あった。
ただね。その場合、僕的に問題が発生する。だって、ミラン様って、とっくに亡くなって……。
「も、もしかして……オバケ?」
ミラン様はクスリと笑った。
オバケに笑われてしまった!
「そうですね。そういう言いかたもできますね」
肯定しないでよっ!
オバケと認めるオバケ……。
「それがこの鏡の魔力です。この鏡は長いあいだ姿を映し続けると、その人間の魂を吸いとってしまいます。古い昔に誰かを呪うために作られたのでしょう。呪いを成就するため、見てはいけないとわかっていても見てしまう、という魅了の魔法がかけられています。わたしも毎日、この鏡を見続け、ある夜、魂を吸われました。体から魂がぬけだすのですから、その体は死んだように見えたのでしょう。そのまま埋葬されてしまい、わたしは帰る場所を失いました。この鏡のなかには、そのような魂がたくさん集まっています」
うーん。複雑な設定のオバケ。
鏡に吸われたときは、まだオバケじゃなかったのか。
「お妃様が病気になったというのは、そのことだったんですね……」
「そうです。最初のうちは鏡から体へ戻ることもできました。でも、だんだん、鏡に囚われている時間が長くなり、あるとき、ついに鏡からぬけだすことができなくなってしまったのです」
僕は考えた。
ということは、さっきの王様のようすは、まさに鏡に魅入られてる?
僕の思考を読んだように、ミラン様はうなずいた。
「さようです。ブランはたったいま、この鏡の魔力に魅入られています。毎夜、魂が体を離れ、このなかにとりこまれています。でも、ブランはまだ完全にこっちの住人になったわけではありません。どうか、鏡の魔法を解き放ち、囚われた魂たちを救ってくださいませ」
僕はふと疑問に思ったことを口に出してみた。
「でも、それじゃ、ヤドリギはなんですか? さっき、この鏡に映ってたのは悪のヤドリギだったような気がするんですが?」
ミラン様の表情がかたくなる。
「この鏡に囚われた人はたくさんいます。そのなかに一体、魔物がいるのです。一番最初に囚われたのは、精霊族のお姫様のようですが、そのすぐあとか、そうでなくても、かなり初期のころに、魔物はこの鏡の住人となったようです。わたしたちは鏡のなかにいますが、ほかの魂とふれあうことはほとんどできません。何度か、ほかの魂とすれちがったときに、その魔物の話を聞くことができました。魔物は失われた自分の体を探しています。強力な魔力を持つ魔物ですから、鏡に囚われてはいても、わたしたちのように完全に束縛されているわけではないのでしょうね。数時間だけなら、魂だけでぬけだすことができるようです。そのさい、人間に取り憑き、自分のカケラを植えつけてはあやつっているのです」
つまり、悪のヤドリギに本体は
ない
んだ。あるのかもしれないけど、自分でもどこにあるのかわからなくなってしまってる。
魂だけで存在する魔物。
それが、悪のヤドリギ——
「それって、この鏡をこわせば、ヤドリギも退治できるってことですか?」
「できるかもしれないし、できないかもしれません。それは、わたしにはわかりません」
うーん。どうなんだろうな?
鏡をこわしたら、なかに閉じこめられてる魂が解放されるんじゃないのかな?
そしたら、ヤドリギの魂も自由になってしまうってこと?
難しい……。
鏡がぼうっと光った。
ミラン様の姿が消え、別の姿が現れた。
今度は誰だ?